Webサイト改善に取り組むとき、「SEOで流入を増やすべきか、それともLPOでコンバージョンを伸ばすべきか」という悩みはつきものです。両施策の役割や効果範囲を誤解したままPDCAを回すと、流入増でも売上が伸びない、LPを作り込んでも訪問が少ない――といった“壁”にぶつかります。また、社内には「そもそも両者の違いが分からない」という声も多く、議論がかみ合わずに施策が止まることさえあります。本記事ではLPOとSEOの本質的な違いを整理し、UI/UXの観点を軸に両施策を連携させるコツを解説します。 1.LPOとSEOの基本的な役割と目的 1-1.LPOは「訪問後の行動促進」に焦点を当てた施策 LPO(Landing Page Optimization)はランディングページ到達後のユーザー行動を最適化し、コンバージョン率(CVR)を高める手法です。フォーム項目の削減やCTAボタンの色・配置変更、ストーリーテリング型コピーライティングなど、ページ内での心理的ハードルを下げる工夫が中心となります。また、A/Bテストで仮説検証を繰り返し、CVRのわずかな改善を積み重ねる点が特徴です。LPOはトラフィック量よりも「流入1回あたりの成果」を最大化する考え方であるため、マーケティング予算が限られるフェーズでもROI*¹向上に直結します。実際にBtoBソフトウェアA社で、ページナビゲーションを排除したことで、フォーム入力率を1.8倍に改善できたケースもあります。A/Bテストで仮説検証を高速に回し、数%のCVR改善を継続的に積み上げることがROI向上の鍵です。 ※1: ROIとは「Return On Investment」の略で、投じた費用に対して、どれだけの利益を上げられたかを示す指標です。ROIが高いほど、投資効果が高いと評価されます。 関連記事:ゼロからわかるLPOの進め方関連記事:「ABテストは意味がない」と言われる理由と成功パターンを徹底解説1-2.SEOは「Webサイトの集客力強化」を目的とした施策 SEO(Search Engine Optimization)は検索エンジン経由の自然流入を増やすための取り組みです。具体的にはキーワード選定、内部リンク最適化、E-E-A-T*²を満たすコンテンツ制作などが挙げられます。SEOの目的は、自サイトを検索結果上位に表示させ、サイトへの流入数を増やすことであり、広告費に依存しない集客チャネルを確立できる点が最大の魅力です。また、検索結果ページで上位表示されること自体がブランド認知の向上につながり、指名検索増にも波及します。ただし、検索意図とコンテンツが合わなければ直帰率が高まり、アルゴリズム評価を下げるリスクがあります。したがって、ユーザー視点でUI/UXの設計を行い、セッション継続時間やスクロール率といった“流入の質”を測る指標を並行して追うことが不可欠です。さらに、一次情報を基に競合よりも深い知識を反映させることで、コンテンツの信頼性と説得力が高まり、結果として、外部リンク獲得にもつながり、ドメイン全体の評価を底上げできます。 ※2: E-E-A-Tは、GoogleがWebサイトの品質を評価するための基準で、「Experience(経験)」・「Expertise(専門性)」・「Authoritativeness(権威性)」・「Trust、もしくはTrustworthiness(信頼性)」の4つの要素を略した用語。 関連記事:UIUXとSEOの相乗効果でサイト価値を高める方法1-3.LPOとSEOの連携がなぜ重要なのか SEOで集めた流入はLPOによって初めて売上や問い合わせに転換されます。検索意図に沿ったキーワードと、LPにおける訴求ポイントが一致しない場合、離脱率が跳ね上がるというデータもあります。また、UX視点から見ると「探していた情報がすぐに見つかるか」は滞在時間だけでなくブランドロイヤルティ*³にも影響します。一方で、LPOだけを強化しても流入が足りなければCV数は伸びません。そのため、キーワードとLPコピーを同じ“ユーザーストーリー”上で設計し、分析を行う際もセッション数とCVRを掛け合わせた“CV獲得効率”といった観点から行うと施策の全体最適が実現します。 ※3:ブランドロイヤリティとは、顧客が特定の商品やサービス、あるいはブランドに対して持つ忠誠心や愛着のこと。つまり、顧客がそのブランドを選び続ける理由、つまり「ファン」になっている状態を表します。 2.LPOとSEO、優先すべき施策の見極め方 2-1.LPOを優先すべき具体的なケース まず、既に一定のオーガニック流入があるにもかかわらずCV数が低迷している場合はLPOを優先するべきです。例えば月間セッションが1万を超えているのにCVRが0.5%未満であれば、最初に改善に着手すべき点は「流入の質」よりも「ページ内体験」にあります。 他にも以下のような場合、LPOを優先するべきといえます。 広告費の高騰でCAC*⁴が悪化しているとき。同じクリック単価で獲得数を伸ばすにはCVR改善が最速ルートです。 リードの質を高めたいとき。フォームの質問設計やLPの情報量を最適化し、工数を削減しながらコンバージョン率を高められます。 ニッチ商材で検索ボリュームが小さいとき。流入拡大よりもサイト訪問者を確実にCVへ導く方がROIが高くなります。 短期で成果が求められるとき。A/Bテストは2週間でも効果測定が可能で、早期の数字改善に直結します。 上記の状況では、「入力項目削減」「ファーストビュー再設計」「信頼要素の配置」など小さな調整でも売上インパクトが大きく、経営陣への説明もしやすい点が利点です。 ※4:CACとは、Customer Acquisition Costの略で、顧客獲得単価を意味します。顧客1人獲得するために必要なコストのことで、マーケティングや営業活動にかかった費用を指します。 具体的には、広告費、人件費、営業経費などが含まれます。2-2.SEOを優先すべき具体的なケース 自サイトの検索流入が少なく、広告依存度が高い場合はSEO強化が急務です。特にLTV(顧客生涯価値)*⁵が高いサービスでは、継続的に費用をかけずに新規顧客を呼び込む仕組みが中長期的な利益に直結します。また、競合が強いキーワード領域で検索順位が低迷している場合、可視性向上はブランド認知獲得にも寄与します。 他にも以下のような場合、SEOを優先するべきといえます。 検索流入が少なく広告依存度が高いとき。広告運用停止=売上停止のリスクを避けるため自然流入基盤が必須です。 LTVが高いサービスで長期利益を確保したいとき。継続課金型ビジネスは獲得コストを早期回収できるため、SEOの遅効性を補えます。 検索意図が明確で比較検討が行われる市場。検索ニーズが明確化している商材(例:SaaSや金融サービス)において、検索上位を獲得することは信頼形成に直結するため、競合より早く情報発信する価値があります。 既存記事が古くアルゴリズムに適応していないとき。既存記事が古くなり検索アルゴリズムの指針に合わなくなったタイミングでもSEO優先のリライトが必要です。 ブランド認知を上げたい新規参入フェーズ。SERP*⁶露出は「見るだけ」で費用が発生しないため、コスト効率が高い施策となります。 1回の取り引きだけではなく、2回目以降のリピート購入による利益も含まれます。 SEOは成果が出るまで時間こそかかりますが、一度獲得したポジションは長期的な資産として自然流入を生み続ける強みがあります。 ※5: LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)とは、ある顧客が自社の商品・サービスを初めて利用してから、関係が終了するまでにトータルで得られる利益のこと。1回の取り引きだけではなく、2回目以降のリピート購入による利益も含まれます。※6:SERPとは、Search Engine Result Pageの略で、GoogleやYahoo!などの検索エンジンの検索結果ページのこと。 関連記事:LTV(ライフタイムバリュー)とは?3.LPOで意識すべきポイント 3-1.ランディングページでの「離脱防止」設計 LPOではファーストビューで価値提案を端的に示すことが必須です。ファーストビューとは、ユーザーがLPに到達して最初に表示されるエリアを指します。一般的には、写真やキャッチコピーで構成されていますが、ファーストビューで価値提案を端的に示すために主に下記の2つの視点が重要です。 ・広告や検索でユーザーが期待していたものを提示できているか ・写真やキャッチコピーでユーザーの興味を惹きつけられているか スクロールなしで要点が理解できる設計は離脱率削減に直結します。また、フォーム直前での離脱率が高い場合は、入力項目の削減やリアルタイムバリデーション*⁷でユーザーストレスを軽減しましょう。さらに、SSL証明*⁸アイコンや顧客の声を要所に配置することで心理的バリアが下がり、CVRが向上します。金融業界の事例では必須項目を10→5に減らしただけで完了率が2.2倍に改善しました。 ※7:リアルタイムバリデーションは、フォームの項目を入力する際に必須項目に入力漏れがないか、または入力内容が正しいかをリアルタイムでチェックする機能です。 ※8: SSL証明書は、ウェブサイトとユーザー間の通信を暗号化し、情報を保護するための電子証明書です。導入すると、ウェブサイトのURLが「HTTPS」となり、ブラウザのアドレスバーに鍵マークが表示されます。これにより、ユーザーはサイトの安全性を確認し、安心して利用できます。 3-2.CTA(行動喚起)を最適化するための工夫 CTAは色・文言・配置の三位一体で最適化します。BtoB領域では“無料診断を依頼”のように行動後のメリットを明確にするコピーが効果的です。また、CTAボタンの周囲に余白を取り視覚的ノイズを減らすとクリック率が向上します。マイクロコピーで「登録は30秒」「後から解約可」など安心材料を示すと心理的ハードルが下がります。A/Bテストでは2週間1500セッション以上のデータを集め、統計的有意差*⁹(p<0.05)を確認してから結論を出すことで誤判断を防げます。 ※9:統計的有意差とは、観測されたデータ間の差が、単なる偶然ではなく、実際に意味のある差である可能性が高いことを示す指標です。具体的には、観測された結果が帰無仮説(データ間に差がないという仮説)と矛盾しない可能性(P値)が、あらかじめ決めた有意水準(通常は5%)より低い場合に、有意差があると判断します。 関連記事:ABテストの有意差とは?UX改善を加速する完全ガイド3-3.UIが与える印象とコンバージョン率の関係性 UIは第一印象を左右し、ブランド信頼の形成に大きく作用します。ビジュアル品質が高いサイトは信頼性評価が2.4倍程度向上し、フォーム完了率を高める傾向にあります。行間1.6em、余白24px、角丸8px以上のカードUIは“読みやすさ”と“やさしさ”を感じさせ、ネガティブ感情を抑制します。モバイル環境ではタップ領域48px以上を確保し、誤タップ防止用の余白を設けるとCVRが安定します。デザインシステムを導入してボタン・アイコン・タイポグラフィ*¹⁰を共通化すると、LP追加時の品質を保ちつつ制作工数を削減できます。 ※10:タイポグラフィとは、文章を視覚的に魅力的かつ読みやすくするために、文字の選択、配置、サイズ、行間、文字間の調整などを調整する技術のこと。 4.SEOで意識すべきポイント 4-1.ユーザーが検索する意図をどう捉えるか 検索クエリには情報収集、比較検討、購入決定などユーザーの意図が複数混在します。 まずは各キーワードを「インフォメーショナル」「ナビゲーショナル」「トランザクショナル」の3層で分類し、それぞれに合わせたコンテンツフォーマットを設計しましょう。検索意図とページ目的がズレると直帰率が急増し、ランキングシグナル *¹¹にも悪影響を及ぼします。また、SERPの構成(動画ブロック・FAQリッチリザルトなど)を事前確認すると競合優位性を分析しやすくなります。さらに、検索意図を満たすだけでなく「次に知りたい情報」を内部リンクで提示すると回遊率が上がり、サイト全体の価値評価を底上げできます。※11: Googleなどの検索エンジンがWebページの順位を決定する際に使用する評価要因のこと。 4-2.コンテンツ設計におけるUI/UXの影響 近年のGoogleアルゴリズムはUXシグナル*¹²を重視しています。読みやすいフォントサイズや十分な行間、ユーザー視点でのモバイルファーストのレスポンシブデザインはページエクスペリエンス*¹³という指標に直結します。ページを階層ごとに整理し、ユーザーが目的ページに3クリック以内で到達できる動線を構築すると直帰率が低下します。また、過剰なアニメーションやポップアップはCLS(レイアウトシフト)*¹⁴を悪化させるため、装飾はユーザーの情報理解を助ける範囲に留めましょう。加えて、視覚的階層とコントラストを明確にすることでアクセシビリティも向上し、幅広いユーザーの満足度を高められます。 ※12: UXシグナルとは、ユーザーエクスペリエンス(UX)を改善するために、ユーザーの行動や態度を測定し、改善するための指標となるものです。具体的には、ユーザーがサービスや製品を利用する際に感じる使いやすさ、満足度、楽しさなどの感情を測定するためのデータポイントのこと。 ※13:ページ エクスペリエンスとは、ユーザーがWebページを閲覧した際の体験の良さ、すなわち、利便性や安全性を測る指標です。Webページのコンテンツ情報以外の価値を評価するものであり、Googleの検索順位にも影響を与えます。 ※14:レイアウトシフトとは、WebサイトやWebアプリケーションの表示中に、ページのレイアウトが予期せずに移動したり、要素の位置がずれたりする現象のことです。この現象は、ユーザー体験を著しく損ない、ユーザーの操作ミスを誘発したり、ウェブサイトの信頼性を低下させたりする可能性があります。特に、画像や広告などの要素が遅れて読み込まれたり、サイズが変化したりすることで発生することが多く、GoogleのCore Web Vitals指標であるCLS (Cumulative Layout Shift) の指標として重要視されています。 関連記事:共感マップ完全ガイド:UI/UXとSEOを同時に強化する方法4-3.UX改善が検索順位に及ぼす間接的効果 具体的な事例として、金融系メディアA社ではモバイル速度を1.2秒短縮し、視認性を高めるレイアウトに再構築した結果、平均検索順位が6位→3位へ上昇しました。高速表示と読みやすいレイアウトは自然被リンクの増加を促進し、E-E-A-T強化に寄与します。また、サイト全体の滞在時間が25%伸び、スクロール率の向上がエンゲージメント指標を押し上げ、最終的にはオーガニック流入が28%増加しました。ユーザー満足度が高いページはSNSでシェアされやすく、外部シグナルを通じて検索評価がさらに向上する好循環が生まれます。 関連記事:UIUXとSEOの相乗効果でサイト価値を高める方法5.UI/UX改善がLPO・SEOを強化する理由 5-1.「分かりやすく、使いやすい」設計が信頼を生む ユーザーは情報を探し求めている際に余計な認知負荷がかかることを嫌います。操作が直感的であるほど「信頼できるブランド」という印象を形成しやすく、購入行動にも移りやすくなります。使いやすいサイトはSNSでのポジティブ口コミやレビューを増やし、自然な外部リンクの獲得にもつながります。一方でUXが悪いとネガティブフィードバックが拡散され、SEO評価が低下する恐れがあります。したがって、LPOとSEOの共通目標として“ユーザーの認知負荷を下げるUI/UX”を設定し、部門を超えた指標で施策を評価することが重要です。 5-2.ペルソナ設定を起点にした施策展開 北米向けSaaS企業の事例では、開発・マーケ・サポートが合同でペルソナワークショップを実施し、“顧客の成功体験”を時系列シナリオに落とし込みました。その結果、SEOのキーワードとLPコピーが一致しCVRが37%向上しました。ペルソナシナリオをGoogleスプレッドシートで共有し、各タッチポイントで「感情」「課題」「提供価値」を明文化すると、施策ごとのKPIと仮説がそろい、部署間の意思決定が迅速になります。さらに、ユーザビリティテストで得られた定性インサイトをUX改善とSEOリライトに即時反映する仕組みをチーム内で構築すると、常に顧客理解をアップデートし続けられます。 関連記事:ユーザビリティテストにおける7つの評価項目:UI/UX改善完全ガイド 6.成果を最大化するための実践アプローチ 6-1.LPO×SEOでCV獲得数を最大化する方法 まず「キーワード×LPマトリクス」を作成し、各セルに“期待CV”と“現状CV”を記載します。ギャップが大きいセル=ハイインパクト領域を優先して改善すると投資効率が高まります。同一LPに複数の検索意図を取り込む場合でも、セクション単位で見出しとCTAを設計すれば直帰率を抑制できます。さらに、SEOで上位を狙いきれないキーワードは広告で補完し、リマーケティングでLP再訪を促す“SEO×広告×LPO”の三位一体戦略が短期と長期の成果を同時に高めます。 6-2.施策効果を高めるための改善サイクルと数値分析の進め方 改善フローは「仮説設定→実装→計測→学習→横展開」の5ステップで回します。SEOでは“流入キーワード×滞在時間×スクロール率”、LPOではファネル*¹⁵別離脱率×CVR×CAC”を追跡しましょう。KPIツリーを一枚のスライドで可視化すると部門を超えた合意形成が迅速化します。Looker Studio等を用いて自動更新ダッシュボードを共有し、週次で改善アイデアを洗い出すリズムを作ると知見が属人化しません。最終的に成果が出た施策はテンプレート化し、新規LPや別ドメインにも水平展開することで組織学習が加速します。 ※15:ファネルとは、顧客が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの行動を、段階的に分けて図式化したものです。 6-3.UI/UXの理解が施策の精度を高める UI/UXの基本原則をマーケターが理解すると、コピーライティングやCTA設計の仮説精度が向上させることができます。結果として、A/Bテストのバリエーション数を減らし、短期間で最適解に近づけます。デザイナーとマーケターが同じフレームワークで議論できる環境はコミュニケーションコストを削減し、施策実装スピードも向上させます。また、ユーザビリティテストで得られた課題点をSEOコンテンツの内部リンク構造や見出しに即反映することで、ユーザーのサイト訪問後の行動を高精度で誘導できます。関連記事:初めて学ぶ人も安心!UI/UX初心者のための基礎知識と学習ガイド7.まとめ SEOは“サイトへの流入数”を増やし、LPOは“コンバージョン率”を高める施策です。UI/UXという共通言語で両者を連携させ、データドリブンな改善サイクルを継続的に回すことで、限られたリソースでも着実にCVを伸ばせます。今日から、SEOとLPOを横断した改善を始めましょう。組織としてペルソナを共有し、ナレッジを蓄積すれば、施策の再現性が高まり成果は持続的に向上します。