サイトやアプリのUI/UXを磨き上げたいと考えるとき、「トンマナ」という言葉を耳にして戸惑った経験はありませんでしょうか。開発チームやデザイナーが当たり前のように使う用語でも、社内関係者全員が共通認識であるとは限りません。「トンマナ」についての理解が曖昧なままUI/UX施策を進めてしまうことで、ブランドイメージが定まらず、ユーザー体験が期待通りに向上しないことがあります。 本記事では、トンマナの概要から設定手順、検証方法までを順序立てて解説します。本記事を読んでいただくことで、サービスのブランドイメージを一貫させ、競合サービスよりも洗練されたユーザー体験を提供できるだけの行動指針を得られるはずです。 1.トンマナとは 1-1.トンマナの基礎知識(概要、定義、語源) トーン(tone)は声色や語調、マナー(manner)は振る舞いを意味し、広告業界では1980年代頃から使用されてきた表現です。近年、マーケティングの多チャネル化が進むにつれ、ユーザーがバナー表示やメール、ウェブやアプリなど、サービスとの接点が増加する中で、各接点の表現の統一感が重視されるようになりました。 「トンマナ」の定義としては、「顧客がブランドに触れた瞬間に受け取る態度の一貫性を担保する指針」とまとめられます。CI(コーポレートアイデンティティ)よりも実務に近く、現場が日々一貫性を判断する際のチェックリストとして機能しています。加えて、トンマナはプロジェクトマネジメントの共通言語としても機能しています。言語化された基準があれば、デザイナーとマーケターが表現意図をすり合わせる時間が短縮され、属人的な判断を減らせます。DX推進が進む日本企業にとって、部署横断のコラボレーションをスムーズにする潤滑油として「トンマナ」は用いられています。 1-2.ブランドボイス / トーンオブボイスとの違い 近年、欧米のマーケターが多用する「ブランドボイス」は主に言語面を、「トーンオブボイス」は特定の状況下での語調を示します。一方、日本で用いられるトンマナは言語に限らず、色や写真スタイル、UIアニメーションまで含む包括的な概念です。そのため、ブランドボイスを策定している企業でもトンマナガイドラインが欠けていると、視覚と文言の整合が取れず、ユーザーが「雰囲気がバラバラ」と感じるリスクが残ります。また、ブランドボイスはキャンペーンごとに変化させることもありますが、トンマナは長期にわたり持続させるのが原則です。ベースマナーを長期的に一貫させることが、ユーザーの感じる使いやすさや親しみやすさに繋がります。短期的な販売促進施策でトーンを変更しようとした場合、ベースマナーが一貫していない状態であると、ユーザーは統一感の無さに違和感を覚えてしまいます。しかしベースマナーを一貫させていれば、ユーザーはむしろこうしたトーン変更を良いアクセントに感じたりもします。 1-3.トンマナが注目されるようになった背景 SNSとモバイルアプリの普及により、企業は1日に何度もユーザーに接触するようになりました。適切なパーソナライズが求められる一方で、声色が日によって変わるブランドは信頼されません。さらに、UIデザインのトレンドライフサイクルが短くなり、複数の外部パートナーと協業するケースも増えています。この複雑化した制作体制を束ね、体験を統合する手段としてトンマナが着目されます。特にBtoC領域ではTikTokやInstagramの短尺動画市場が拡大し、ユーザーの情報処理速度が上がっています。トンマナで即時にブランド連想を起こす重要度が増しています。 2.トンマナの重要性、設定することによるメリット トンマナを定義せずにリリースを重ねると、ユーザーは毎回違うプロダクトに触れている感覚を覚えます。結果として、サービスの学習コストが上がり、離脱率が高まります。反対に一貫性を保てれば、ストレスなく操作が学習され、信頼が醸成されます。本節では、ビジネス指標にどのような好影響があるかを具体的に示します。現場では「忙しくて手が回らない」という声が上がりがちですが、トンマナが曖昧なまま進むと後工程での修正コストが雪だるま式に増えます。メリットと機会損失を天秤に掛けて判断できるよう、定量データを示しながら解説します。 2-1.UI/UX向上によるエンゲージメント強化 ボタンの色や文言がページによって変わると、ユーザーは再確認のためにワンテンポ止まり、操作フローが分断されます。一方でトンマナが統一されていると、どこにどの要素(ボタン/説明/遷移先リンクなど)があるのか予想しやすい状態であるため、ストレスなく操作することが可能になります。国内EC大手A社がガイドラインを整備した際は、チェックアウト完了率が17%改善したという社内検証が報告されています。また、一貫したトンマナはオンボーディングコストを下げ、MAUやリテンション率の底上げに寄与します。A/Bテストツールを用いて色調とラベルを一括で差し替えた場合も、トンマナ基準を踏まえた案は離脱リスクが低い傾向があります。離脱リスクが低いということは、改善箇所の機能変更や検討にかかるコストを抑えることが出来るため、テスト試行の回数を確保でき、結果としてPDCAサイクルを多く回していくことが可能になります。 2-2.ブランディングの強化(ブランド認知と信頼性の獲得) 視覚と言語が連動すると、ユーザーはブランドの人格を短時間で把握できます。素材感とシンプルな語り口を徹底すると、店頭からアプリまで同じフィロソフィーが伝わり、企業理念と日常体験が直結します。この認知の連想が購買意思決定を後押しし、広告投資を抑えつつLTVを伸ばします。さらに、トンマナが統一されているブランドは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)でも同様の表現が踏襲されやすくなります。ファンによる発信と公式コンテンツのギャップが小さいほど、口コミが自然に拡散し、広告換算価値が高まります。 2-3.SEO評価への好影響 GoogleはE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の評価軸を重視しています。トンマナが整理されると、見出し構造やマイクロコピーが体系化され、内部リンクや構造化データの最適化も促進されます。結果として検索エンジンがサイト構造を理解しやすくなり、コアアップデート後も順位が安定しやすい傾向が観測されています。内部リンク構造の明確化はクロールバジェットの最適化にも寄与し、大規模サイトのインデックス速度向上が期待できます。加えて、一貫したメタデータの命名規則を用いると、オープンソーシャルグラフにおけるプレビュー表示でもブランドアイデンティティを保持できます。 2-4.マーケティングコストの効率化(コスト削減) 制作ガイドが明文化されていないと、クリエイティブ修正のたびに関係者への確認フローが発生します。トンマナ基準書を共有すれば、外部パートナーは初回から方向性を一致させられ、修正回数が減ります。SaaS企業B社では、バナー制作のリードタイムが平均2.1日短縮し、発注コストが年間で16%削減されました。同様に、社内承認フローもテンプレート化できるため、意思決定にかかる時間が短縮し、チャンスロスが軽減されます。クリエイティブ開発のPDCAが速まり、リリースサイクル全体が短くなる効果も指摘されています。 3.トンマナを構成する3つの要素 トンマナは単なるデザインテンプレートではなく、ユーザー接点で発生する認知体験を立体的に設計する枠組みです。本節では、言語・視覚・動作の三位一体で考える必要性を説明します。三つの要素は相互依存関係にあり、どれか一つを軽視すると体験が分断されます。順に読み進めることで、デザイナーとライター、エンジニアが共通言語で議論できる状態に一歩近づくでしょう。 3-1.言語スタイル(コピー・語調・敬語レベル) 言語スタイルはユーザーが最初に受け取る人格の手がかりになります。敬語を用いるのか、フレンドリーな口語にするのかは、ブランドのポジショニングに直結します。顧客サポートで丁寧語を使うにも、テンションが高いコピーと組み合わせると不協和音が生じるため、使用場面ごとに文体基準を設定することが求められます。例えば、銀行系アプリで若年層向けキャンペーンを展開する場合でも、敬体を維持しつつ体験を柔らかくする表現が工夫されることがあります。「〜でございます」を「〜です」に変更するだけでなく、動詞の位置や助詞の選択などで印象は大きく変化します。 3-2.ビジュアルスタイル(カラー・タイポグラフィ・レイアウト) 色彩は感情を瞬時に喚起し、タイポグラフィは可読性と知的印象を左右します。WCAG(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)のアクセシビリティ基準を意識しつつ、原色を避けた落ち着いたトーンを選ぶと、BtoBサービスでも信頼感を維持できます。レイアウトにおいては余白と階層構造を整え、スキャンリーダーで情報を取得しやすくすることがSEOとユーザビリティ双方に好影響を与えます。国際展開を想定する場合は文化による色彩連想の差異に注意が必要です。例えば、白は日本で清潔感を連想させますが、中国では喪を示唆する場合があるため、現地調査を踏まえてアクセントカラーを微調整する施策が求められます。 3-3.インタラクションスタイル(アニメーション・マイクロコピー) アニメーション適度に用いることでシステムの状態変化を視覚的に補足し、認知負荷を軽減します。マイクロコピーは短文ながら情報を的確に補足し、コンバージョンを後押しする存在です。これらを一貫したトンマナで設計することで、ユーザーは安心感を得られます。さらに、95%以上のユーザーが10秒以内に離脱してしまうという統計が示すように、ローディングアニメーションの長さには注意が必要です。進捗バーと軽快なマイクロコピーを合わせると、待機時間の心理的負担を半減できると言われています。 4.トンマナを徹底している代表的なサイト 国内外で高評価を得るサービスは、見えない部分でトンマナの調律に注力しています。本章では、その象徴的な事例を取り上げ、何がユーザー体験を高めているのかを解説します。紹介する事例は「誰が見ても一目でそのブランドだと分かる」トンマナになっています。ぜひ自社サイトと照らしていただき、差分を洗い出す際の参考にしてください。 事例1:無印良品 無印良品のECサイトと実店舗のサインは、生成り色と余白を基調とし、装飾を極力排したビジュアルが特徴です。商品説明では「感じ良い暮らし」というブランドフィロソフィーに沿った簡潔な語り口を徹底し、買い物の選択肢を増やすよりも、迷わない導線を優先しています。アプリのクーポン画面でも同じ書体と配色が用いられ、プラットフォームを跨いでも統一感が失われません。また、カテゴリーページのパンくずリスト配置と背景色の使い分けにより、ユーザーは現在地を迷わず把握でき、商品探索がストレスなく進む構造となっています。 事例2:ユニクロ ユニクロは鮮やかな赤のロゴと明快な商品の魅力訴求コピーで知られます。ウェブサイトでは視覚階層を保ちながら、マイクロアニメーションを用いて商品特徴を立体的に提示しています。アプリのレビュー欄でも敬体と常体を混在させず、口語の滑らかさを維持することでカジュアルさと信頼性を両立しています。加えて、アクセサリーやコラボ商品ページでも余白とグリッド幅が統一されており、トンマナの連続性がブランドの幅広い商品ラインを一つのストーリーにまとめています。 5.トンマナ設定のステップ トンマナの設定は一度きりではなく、ブランドの成長とともにメンテナンスすべきです。以下の4ステップで進めれば、現場の納得を確保しながら実装しやすくなります。そして各ステップはウォーターフォール式ではなく、アジャイルに回していくことが推奨されます。小さく仮説検証を繰り返し、組織習熟度に合わせて細部をブラッシュアップしてみてください。 5-1.目的設定とペルソナの明確化 まず、サービスが解決すべきユーザー課題とビジネス目標を整理します。次に、主要ターゲットを具体的な人物像に落とし込み、価値観や利用シーンを可視化します。目的が曖昧なままデザインを決めると、途中で基準がぶれやすいため、KPIと合わせて明文化することが肝要です。ペルソナを作成する際には、単なる人物像ではなく、ユーザージャーニーマップと組み合わせ、感情曲線を描写すると、シナリオごとのトンマナ調整の判断基準が見えやすくなります。 5-2.競合サービスやペルソナの関心の分析 競合がどのようなトンマナで成功しているかを客観視し、自社がポジショニングしたい性格を決めます。ユーザーインタビューを通じて関心事や嫌悪感を収集し、差別化する方向性を導き出します。分析結果はカラーボードやコピー例として共有すると、チーム全員が具体イメージを持ちやすくなります。データ分析ツールで競合トラフィックの流入キーワードを調査し、ユーザーがどの言葉に共鳴しているかを数値で把握すると、トンマナの差別化テーマがより具体的に浮かび上がります。 5-3.ブランドコンセプトの再定義 企業理念やビジョンが時代と共に変遷している場合、トンマナ設定の前に言語化をアップデートする必要があります。ここで定めたコアメッセージが、以降のコピーとビジュアルの判断軸になります。経営層を巻き込んで合意形成を図ることで、現場の迷いを減らし、推進力を得られます。ステークホルダーが多いほど声が分散しやすいため、ワークショップ形式で価値観を統合し、コンセプトステートメントを生成するデザインスプリントが有効です。 5-4.具体的なトンマナ設定 言語・ビジュアル・インタラクションの具体例を列挙し、OK/NGのサンプルを示すことで、抽象概念を防ぎます。コンポーネント単位でルールを明文化すれば、FigmaやStorybookなどのデザインシステムと連携しやすくなります。クラウド上でバージョン管理を行い、更新履歴が分かるようにしておくと改善サイクルがスムーズです。ガイドラインではHTML/CSSコードのスニペットも添付し、開発者がコピーペーストで実装できるレベルまで落とし込むと、浸透速度が飛躍的に向上します。 6.UI/UX改善への実装 トンマナはガイドラインに留めず、各チャネルの設計・運用に落とし込んでこそ価値が生まれます。ここでは、Web、モバイルアプリ、マルチチャネルの三つの角度から適用ポイントを整理します。ここで述べる施策は、すべてベースラインとしての推奨であり、ユーザーテストの結果に応じて柔軟に最適化することが大切です。設計思想を守りながら局所カスタマイズするアプローチを取ることで、スケールと個別最適を両立できます。 6-1.Webサイトへの適用 WebではグリッドシステムとCSS変数を用いて色とタイポグラフィをモジュール化すると、更新作業が効率化します。フォーム要素のバリデーションメッセージやCTA(行動喚起)ボタンの形状も、トンマナの一貫性を担保すると離脱抑制に直結します。アクセシビリティ基準をクリアしたテキストコントラストを維持することで、視覚障がい者フレンドリーなサイト運営が可能になります。AMPやCore Web Vitals対策の観点からも、一貫したコンポーネント設計はレンダリングブロックを減らし、パフォーマンス改善に寄与します。 6-2.モバイルアプリへの適用 モバイルは画面サイズと利用シーンが限定されるため、タッチターゲットの大きさとアニメーションの速度が体験を左右します。トンマナのガイドにミリ秒単位の遷移基準を盛り込むと、OSアップデート時のリファクタリング指針になります。プッシュ通知の文言もガイドラインで規定すれば、担当者が変わってもブランドボイスがぶれる心配がありません。ユーザーが片手操作する想定で、親指リーチ領域に主要アクションを配置する際も、配色と文言の一貫性を保つことでヒューリスティック評価の得点が向上しやすくなります。 6-3.マルチチャネル(SNS・メール・広告)連携 SNSでは口語表現が望まれますが、公式サイトの丁寧語と乖離しすぎると違和感が生じます。トンマナ表を用いてチャネルごとに許容する雑談度合いを定義すると、運用担当者が判断しやすくなります。広告用クリエイティブも同じキーカラーとフォントを適用すれば、認知の連想が強化されます。メールでは件名の文字数や絵文字の使用可否をトンマナに含めると、担当者交代時に開封率が大きくぶれる事態を防げます。 7.トンマナの効果検証と社内浸透 トンマナを策定しても、利用が現場に定着しなければ期待値は実現しません。定量・定性の両面で検証し、改善サイクルを回すことが不可欠です。施策の効果が見えなければ担当者のモチベーションは持続しません。数値目標と社内共有のプロセスをセットで考え、成功体験を積み重ねる仕組みづくりを解説します。 7-1.効果検証(インタビュー/アンケートの実施) 施策前後でNPS(ネットプロモータースコア)やタスク完了時間を測定し、ユーザーインタビューで質的洞察を補うと、チューニングすべき要素が明確になります。アンケートでは「サイトが一貫していると感じるか」を複数回答で設問し、数値目標を持つことで改善効果を社内に示しやすくなります。定性データを収集する際には、カードソーティングを併用して表現に対する直感的評価を可視化すると、細部の印象を定量的に比較できます。 7-2.トンマナガイドラインの整備と社内浸透 ガイドラインは共有フォルダにPDFを置くだけでは浸透しません。ランチ&ラーニングやデザインスプリントに組み込み、実務でマイクロコピーを作成するワークショップを開くと、理解が深まります。社内ポータルに事例とテンプレートを蓄積し、フィードバックループを設けることで、基準は自走的にブラッシュアップされます。さらに、インターナルブランディングとして従業員の名刺やメール署名にトンマナを反映させると、社内外の情報発信チャネルが統合されます。 まとめ トンマナでブランド体験を最大化する トンマナは、言語・視覚・インタラクションを束ね、企業の人格をユーザーに一貫して届ける羅針盤です。本記事で示した設定プロセスと実装ポイントを実行すれば、UI/UXが改善され、ユーザーのエンゲージメントと信頼が高まります。ガイドラインの運用と検証を継続し、ブランド体験を進化させ続けてください。