「自社サイトのデザインや操作性にはそれなりに自信があるはずなのに、ユーザーの満足度がいまいち伸び悩んでいる…」と感じたことはありませんか。見た目の美しさや使いやすいUIを追求することは、もちろん顧客体験の向上において重要なポイントです。しかし、それだけでユーザーに「また使いたい」「この企業を信頼したい」と思ってもらうには不十分なケースがあります。 実は、UX(ユーザーエクスペリエンス)とCX(カスタマーエクスペリエンス)という2つの概念を総合的に捉えながら改善することが、リピーター獲得やブランド価値の向上につながる大きなカギとなります。UXは製品やサービスの利用時に焦点を当てる一方で、CXは認知から購入後のフォローに至るまで、顧客が企業と関わるあらゆる接点を対象とする広範な概念です。 もし「UXとCXはどう違うのか?どう関係しているのか?」と疑問をお持ちであれば、本記事がお役に立つはずです。ここでは、UXとCXの定義から、それぞれが果たす目的や注目すべきポイントの違い、さらに両者を結びつけて考える具体的なメリットまで、分かりやすく整理して解説します。また、顧客満足度の向上に役立つ具体的な施策事例も交えながら、企業全体で取り組むCX戦略の重要性についても触れていきます。 本記事をお読みいただくことで、ユーザーとのあらゆる接点を最適化し、長期的な信頼を獲得していくうえで必要な視点や方法がきっと見えてくるでしょう。UXやUI/UX改善を検討している方はもちろん、社内でCX戦略を推進する役割を担う方にも、今後の方針を固めるうえでぜひ参考にしていただければと思います。 1.UXとCXの定義 1-1.UX(ユーザーエクスペリエンス)とは UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、ユーザーが製品やサービス、システムなどに接触した際に得られる体験全体を指します。具体的には、アプリやウェブサイトの操作感、画面デザインの見やすさ、エラー発生時のリカバリのしやすさなど、「使っている最中にどれだけスムーズで快適か」が大きく影響します。 もしアプリの構造が複雑で、どこをタップすればいいのか分からない画面が多い場合、ユーザーは「使いづらい」と感じて離脱してしまうかもしれません。逆に、必要最低限のボタン配置と明確なガイダンスがあれば、ユーザーは直感的に操作しやすくなり、「このサービスは分かりやすいしストレスが少ない」と感じるでしょう。 また、UXの質は見た目や機能面だけでなく、システム基盤やサーバーの応答速度など広範な領域に及びます。たとえば、どんなに優れたUIデザインを採用していても、読み込み時間が長すぎたり頻繁にエラーが起きたりすると、ユーザーはスムーズに目的を達成できず、不満を抱えてしまいます。これらの要素を総合的に高めることで、ユーザーは「また使いたい」「友達にも薦めたい」と思うようになり、長期的なファン化やリピーター獲得につながっていくのです。 1-2.CX(カスタマーエクスペリエンス)とは 一方、CX(カスタマーエクスペリエンス)は、企業やブランドとのあらゆる接点を通じて顧客が得る総合的な体験を意味します。UXが「製品やサービスを利用している最中の体験」に特化するのに対し、CXは「顧客が企業と出会う前から購入後のサポートまで含めた一連の流れと印象」に目を向ける広い概念です。 たとえば、顧客が商品を知る段階(広告やSNS、口コミなど)から情報収集、比較検討、購入手続き、配送、アフターサポートに至るまで、どの瞬間にどんな印象を持つかがCXに影響します。もし問い合わせ窓口の対応が遅く、形式的な返信しか得られない場合、ユーザーは「サポートが不親切」「この企業は顧客を大切にしていないのではないか」と感じてしまうかもしれません。こうしたネガティブな印象が蓄積されると、せっかく商品自体に魅力があっても、ブランド全体の評価が大きく下がる原因となり得ます。 反対に、サイトの情報が非常に充実していて検討がしやすかったり、問い合わせフォームが分かりやすく、回答も早いといった好印象を与えられれば、「この企業はきちんとユーザーの立場に立ってくれている」「長く付き合いたい」と感じてもらいやすくなります。結果として顧客ロイヤルティが高まり、ポジティブな口コミやリピート購入といった成果にも結びついていくのです。 2.UXとCXの違い 2-1.注目する視点とタイミングの違い UXは、ユーザーが製品やサービスを「使っている最中の体験」に特化して考える概念です。たとえば、アプリ内のボタン配置、画面遷移、操作フロー、エラー対応など、「今ユーザーが何を操作しているか」にピントを合わせています。そのため、UIデザインや操作性、速度、エラーハンドリングといった技術的・機能的なポイントがUXを左右する大きな要素となります。 一方、CXは認知から購入後のフォローまでを通じて、顧客が一連のプロセスで抱く印象や評価に注目しています。情報収集フェーズでのブランドイメージ、購入段階での決済方法やキャンペーン、購入後のサポート対応など、時系列で見たときに顧客がどのようにブランドを捉えるか、どのように感じているかを幅広くカバーするのが特徴です。 言い換えると、UXは「プロダクト内部での使い心地」を重視し、CXは「企業全体の接点を通じた体験」を網羅しているとも言えます。どちらも顧客満足度に直結する重要な概念ですが、UXがスポットライトを当てるのは「利用時の快適さ」、CXは「利用前後も含む全体像」と覚えておくと整理しやすいでしょう。 2-2.目的・目標の違い UXの最大の目的は、プロダクトやサービスを使う際のストレスを減らし、快適で満足度の高い利用体験を提供することにあります。ユーザーがスムーズに操作できるUI、見やすいレイアウト、直感的なデザインなどを備えることで、ユーザーが「これなら簡単だ」「また使いたい」と思う気持ちを引き出すのです。結果的に、口コミやレビューでも高評価を得やすくなり、新規顧客の獲得やリピーターの増加が期待できます。 一方で、CXが目指すのは、企業と顧客の関係を長期的かつポジティブに構築し、ブランド全体へのロイヤルティを育むことです。たとえば、購入プロセスでのハードルを下げる工夫や、アフターサポートの充実によって「この企業は信頼できる」「困ったときにも手厚いフォローがある」といった安心感を持ってもらうことが重要になります。こうした全体的なポジティブな体験が積み重なるほど、「次回もこのブランドを選びたい」「周りにも薦めたい」という意欲につながるのです。 3.UXとCXの関係性 3-1.UXはCXの一部分としての要素 UXとCXは、しばしば別々のコンテキストで語られることが多いですが、実際には「UXはCXの一部分」であると考えられます。企業が提供するあらゆるタッチポイントを含むCXの中でも、とりわけユーザーが「実際にサービスや製品を操作する瞬間」がUXに相当するためです。 たとえば、ウェブ広告やSNSで興味を持った顧客が、アプリをダウンロードして使ってみたとき、画面がわかりやすくスムーズに操作できれば「この企業はユーザー目線を理解している」と感じ、全体のCX評価も自然と上がりやすくなります。反対に、アプリが使いにくかったり、エラーが頻発したりすれば、ブランド全体への信頼感を損なう一因となり得るでしょう。 このように、UXを改善することは、そのままCXを底上げすることにつながります。ただし、UXだけを頑張って向上させても、他の接点(広告、問い合わせ対応、店舗での接客など)で顧客が不満を感じれば、CX全体の向上を阻む要因となってしまいます。 3-2.UX改善だけでは充分ではないCX戦略 UXを磨くことで、製品やサービスの使い心地が向上するのは確かです。しかし、顧客が企業に抱く印象は「利用時の体験」だけで決まるわけではありません。たとえば、アプリ自体は高機能で使いやすいのに、問い合わせフォームが煩雑で返答にも時間がかかり、しかも担当者の対応が不親切であるケースを想像してみてください。ユーザーは、「この企業は顧客を大切にしていない」と感じ、全体的な評価を下げてしまうでしょう。 そのため、CX戦略を成功させるには、UXに限らずあらゆるタッチポイントを一貫性のある体験で結びつけることが重要になります。広告の打ち方や実店舗での接客方針、オンラインサポートの運営体制なども含めて、顧客がいつ・どのチャネルで接触してもスムーズかつ満足度の高い対応を受けられる状態を目指しましょう。UXはその中核を担う要素ではありますが、それ単独では顧客満足度を最大化しきれない、という点を押さえておく必要があります。 4.UXとCXを統合した戦略の立て方 4-1.顧客視点でのプロセス設計 UXとCXを同時に向上させるには、まず顧客が実際にどのような行動と心理で商品やサービスに触れているのかを、できるだけ具体的に把握することが重要です。そのための有効な手法の一つが「カスタマージャーニーマップ」の作成です。 カスタマージャーニーマップでは、ユーザーが商品を認知した瞬間から実際の利用、アフターサービスまでの流れを段階的に整理します。たとえば、以下のようなステップに分解して、それぞれの段階でユーザーがどんな疑問や不安を抱きやすいか、どのようなタッチポイント(サイト、アプリ、店舗、コールセンターなど)を利用するかを可視化します。 1.認知フェーズ SNSや広告、口コミなどで存在を知る Web検索でキーワードを入力し、商品やサービスの詳細を調べ始める 2.比較検討フェーズ 競合の商品・サービスとの違いを比較 料金プランや機能一覧、ユーザーレビューなどをチェック 3.購入・契約フェーズ 実際にオンラインストアや店舗で購入・契約手続き 決済方法やアプリ内での登録作業などがスムーズに行えるかどうか 4.導入・利用フェーズ アプリのダウンロードやアカウント作成後に初めて操作してみる エラーや操作ミスが起きたときの対処方法がわかりやすいか 5.アフターサービス・継続利用フェーズ 問い合わせやサポートが必要になったときにスムーズに対応してもらえるか アップデートやキャンペーン情報などを受け取りながら、継続利用を検討 こうしたフローを可視化し、それぞれのステップで顧客がどんな体験をするか、そこでUXとCXがどう絡み合うかを考慮することが大切です。認知フェーズでは企業のブランドイメージや広告の打ち方がCXに大きく影響しますが、利用フェーズに入ればUXがCXを左右する主役となります。さらに、アフターサービス段階では問い合わせ対応がスムーズかどうかが顧客の評価に直結するなど、ステップごとに最適化すべきポイントが異なるのです。 4-2.CXを高めるためのデータ活用と改善サイクル UXとCXを一体となって向上させるためには、「データに基づく継続的な改善サイクル」を回すことが不可欠です。勘や経験だけでなく、定量と定性の両面から顧客の声や行動パターンを捉えることで、的確な施策を打ちやすくなります。 Step1.定量データの収集 アクセス解析や操作ログを用いて、ページごとの滞在時間、離脱率、コンバージョン率などを把握する カスタマーサポートへの問い合わせ件数や対応時間、顧客満足度(CSAT)、ネットプロモータースコア(NPS)などを定期的に測定する Step2.定性データの収集 ユーザーインタビューやアンケート調査を実施し、「なぜその操作をしたのか」「どこに不安や不満を感じたのか」といった具体的な声を拾う ユーザビリティテストを行い、実際に利用している様子を観察して操作のつまずきや心理的なハードルを洗い出す 関連記事:UI/UXリサーチとは?ユーザー理解からデザイン改善まで実践的手法を完全解説Step3.PDCAサイクルやデザイン思考の導入 収集したデータをもとに課題を特定し、新たな施策を計画(Plan)する 実際に施策を導入・実行(Do)したら、再度データを採取して評価(Check)する 改善点や次のアクション(Action)を定めて、再び施策をブラッシュアップする この一連のサイクルを繰り返すことで、サービスやサイトはユーザーの声に適切に応える形へと進化していきます。特に、デザイン思考のプロセスを取り入れると、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、より革新的な体験価値を創出しやすくなるのがメリットです。 4-3.具体的な実装事例 UXとCXを総合的に向上させた成功事例として、多くの企業が「パーソナライズ機能」を活用しています。たとえば、ECサイトでユーザーの過去の検索履歴や購入履歴を分析し、その人に合った商品をトップページやおすすめ枠で表示する手法です。こうしたパーソナライズ機能が充実していると、ユーザーは「ほしい商品がすぐ見つかる」「自分の趣味嗜好を理解してくれている」という快適さを感じやすく、UXとCXの両方が高まります。 さらに、オムニチャネル戦略でオンラインとオフラインをシームレスにつなぐ例も増えています。たとえば、店舗で購入した商品履歴をオンラインのアカウントで確認できるようにしたり、オンラインで注文した商品を実店舗で受け取れるようにすることで、「どのチャネルを利用しても一貫したサービスが提供される」という安心感をユーザーに与えます。こうした企業努力が顧客ロイヤルティを高め、長期的な売上アップや良質なクチコミ拡散につながるのです。 また、問い合わせ対応やカスタマーサポートに力を入れる企業も増加傾向にあります。チャットボットで問い合わせを一次受付し、複雑な案件はスタッフが迅速に対応する体制を整えれば、ユーザーの待ち時間を大幅に短縮できます。UI/UXをしっかり設計して顧客が困りにくい状態を作っておき、なおかつ困ったときにはスピーディーかつ親身に対応できるサポート体制を築くことで、CXは大きく向上していくでしょう。 5.まとめ UXとCXは、一見すると領域が異なるように見えますが、実際には深く結びついており、UXはCXの一部を構成する極めて重要な要素です。UXを改善すれば、「このサービスは使いやすい」「直感的に操作ができてストレスが少ない」という好印象を抱いてもらいやすくなり、企業への評価や信頼にもつながります。一方、いくらUXが優れていても、問い合わせ窓口の対応が悪かったり、実店舗の接客が行き届いていなかったりすると、トータルでの顧客体験(CX)は損なわれてしまうため、長期的なロイヤルティ確立には至りません。 そのため、UXが果たす役割をしっかりと認識しつつ、広告や店舗対応、サポート体制など、企業と顧客のすべての接点で一定以上のクオリティを担保し、「どこでやり取りしても快適・安心」と思ってもらう状態を目指しましょう。こうした全体最適を図る取り組みこそが、顧客満足度とロイヤルティを高め、ブランドの成長を支える原動力になります。 具体的には、カスタマージャーニーマップを用いて顧客が通る一連の道筋を可視化し、定量・定性両面のデータを活用して課題を抽出し、段階的に改善するPDCAサイクルを回すのが有効です。また、デザイン思考を取り入れることで、表面的なニーズだけでなく顧客の潜在的な希望や欲求にアプローチしやすくなります。 もし自社のUI/UX改善を検討中であれば、ぜひ本記事で紹介した視点を活かしていただきたいところです。UXを向上させる施策をしっかりと行う一方で、サポート体制やプロモーション、実店舗との連携など、CXを構成する他の要素にも注目し、全体の一貫性を保つことを意識してみてください。少しずつ改善を積み重ねることで、顧客との信頼関係はより強固なものとなり、長期的にはビジネスの安定と拡大に大きく貢献してくれるはずです。