「ユーザーが本当に求めていることを知りたいけれど、そのためのデプスインタビューは一体いくらかかるのだろう?」UI/UX改善プロジェクトを進める中で、このように感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。費用感が分からず、効果的な調査に踏み出せないというお悩みは少なくありません。この記事では、デプスインタビューの費用相場から具体的な内訳、そして費用対効果を最大化するためのポイントまで、分かりやすく解説していきます。 1.デプスインタビューとは? デプスインタビューは、UI/UX改善の精度を高めるために非常に有効な調査手法です。まず初めに、その基本的な目的と、実施することで得られるメリットについて理解を深めていきましょう。 関連記事:デプスインタビューのメリット・デメリットを徹底解説!1-1.デプスインタビューの目的 デプスインタビューの最大の目的は、ユーザー自身も意識していないような、深層心理にあるニーズや価値観(インサイト)を発見することです。 アンケート調査のように、あらかじめ用意された選択肢から回答を選ぶ形式では、「なぜそう思うのか」「どのような背景があるのか」といった深い部分まで探ることは困難です。一方で、デプスインタビューは、一人の対象者とインタビュアーが1対1で、1時間から1時間半程度の時間をかけてじっくりと対話を行います。この対話を通じて、製品やサービスに対する「なんとなく感じる不満」や「言葉にしづらい満足感」の背景にある、具体的な体験や感情を深掘りしていくのです。 1-2.実施によるメリットと成果 デプスインタビューを実施することで、企業は多くのメリットと具体的な成果を得ることができます。 最大のメリットは、数値データだけでは見えてこない「ユーザーの生の声」を、その背景にある文脈とともに理解できる点です。これにより、UI/UX改善の方向性を見誤るリスクを減らし、より的確な施策を立案できます。 具体的な成果としては、以下のようなものが挙げられます。 プロダクトやサービスの具体的な改善点の発見:ユーザーがどこでつまずき、何を不便に感じているのかが明確になります。 新たな機能やサービスのアイデア創出:ユーザーの潜在的なニーズから、新しいビジネスチャンスのヒントが得られます。 ペルソナの解像度向上:ターゲットユーザーの人物像がより具体的になり、チーム内での共通認識が深まります。 意思決定の質の向上:ユーザーのリアルな声という客観的な根拠をもとに、自信を持ってプロジェクトを進めることができます。 関連記事:ペルソナの作り方|成果につなげる手順を解説2.デプスインタビューの実施プロセス デプスインタビューは、思いつきで始められるものではなく、成功のためには計画的で丁寧なプロセスが不可欠です。ここでは、一般的な実施プロセスを4つのステップに分けて解説します。 2-1.①調査設計 調査設計は、デプスインタビュー全体の成果を左右する最も重要なフェーズです。ここでの設計が曖昧だと、いくら時間をかけてインタビューを実施しても、有益な情報は得られません。 まず、「この調査で何を明らかにしたいのか」という目的と課題を明確に定義します。例えば、「自社ECサイトの購入率が低い原因を探る」「新サービスのターゲットユーザーの受容性を測る」といった具体的なテーマを設定します。そのうえで、どのような情報を持つ人に話を聞くべきか、対象者の条件(年齢、性別、利用経験、価値観など)を詳細に定めます。最後に、当日のインタビューをスムーズに進めるための調査ポイント整理や質問項目、話の流れをまとめた「インタビューフロー」を作成します。 2-2.②リクルーティング リクルーティングとは、調査設計で定めた条件に合致する調査対象者を探し出し、インタビューへの参加を依頼するプロセスです。 自社で保有している顧客リストから対象者を探す方法もありますが、条件に合う人が見つからない場合や、バイアス(偏り)のない意見が欲しい場合は、リクルーティングを専門に行う調査会社に依頼するのが一般的です。希少な条件の対象者(例:特定の疾患を持つ患者さん、高所得者層など)を探す場合は、このリクルーティングの難易度が高くなり、費用や期間にも影響を与えます。適切な対象者を見つけられるかどうかは、調査の質に直結するため、非常に重要な工程です。 2-3.③実査 実査とは、実際にインタビューを実施する段階のことです。近年では、オンラインミーティングツールを利用したリモートでの実施も増えていますが、対象者の表情や仕草などをより詳細に観察できる対面でのインタビューも依然として有効です。 インタビューの進行役は「モデレーター」と呼ばれ、そのスキルがインタビューの質を大きく左右します。優れたモデレーターは、単に質問を投げかけるだけでなく、対象者がリラックスして本音を話せるような雰囲気を作り、話の流れに応じて質問を柔軟に変化させながら、深層心理に迫っていきます。この「深掘り」の技術こそが、デプスインタビューの核心部分と言えるでしょう。 2-4.④分析 インタビューを終えたら、その内容を分析し、UI/UX改善に繋がる知見を導き出すフェーズに入ります。 まずは、録音した音声データを元に、発言内容をすべて書き起こした「発言録(スクリプト)」を作成します。次に、その発言録を読み込み、注目すべき発言や共通して見られる意見などをグルーピングし、構造化していきます。この過程を通じて、個々の発言の裏にある共通のパターンや価値観、つまり「インサイト」を発見します。最終的には、発見したインサイトを基に、具体的な課題や改善提案をまとめたレポートを作成し、関係者で共有します。 2-5.スケジュールイメージ デプスインタビューの企画から最終報告までには、一般的に1ヶ月から2ヶ月程度の期間を要します。もちろん、調査の規模や内容によって変動しますが、大まかなスケジュール感は以下の通りです。 調査設計・企画:1〜2週間 リクルーティング:1〜3週間 実査(インタビュー実施):1〜2週間 分析・レポーティング:1〜2週間 特にリクルーティングは、対象者の条件によって期間が大きく変動する可能性があるため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。 3.デプスインタビュー費用の相場 それでは、本題であるデプスインタビューの費用について見ていきましょう。費用は様々な要因によって変動しますが、ここでは一般的な費用帯と、その内訳について詳しく解説します。 3-1.一般的な費用帯 ユーザビリティテストの費用は、規模や方法によって大きく変動します。ここでは、UIscopeを利用してデプスインタビューを実施した場合の費用感をご紹介します。 UIscopeで5名でのデプスインタビューを実施した場合、数十万円~100万円前後の費用感になります。費用帯は調査会社によって様々ですが、一般的な相場感も上記の通りです。 UIscopeの場合、テスト被験者をモニターとして抱えている(自社モニター:約4万人、提携パネルも含めると約240万人)ため、リクルーティングにかかる費用は他社と比較しても安価に設定しています。 以下で費用の内訳をご紹介しますが、調査会社によっては一部のみを切り出して依頼することも可能です。実際にUIscopeでは、リクルーティングのみのご依頼や調査設計~実査までのご依頼など、一部工程を切り出してのご依頼を承っております。デプスインタビューをご検討されている皆さまのご予算やケイパビリティに併せて柔軟にテスト設計が可能ですので、ぜひご相談ください。 3-2.費用の内訳とその詳細 デプスインタビューの総額費用は、主に以下の項目から構成されています。それぞれの内容を理解することで、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。 調査企画・設計費 調査全体の目的設定、対象者条件の定義、インタビューフローの作成など、調査の土台を作るための費用です。調査の成果を左右する最も重要な部分であり、専門家の知見が必要となるため、一定の費用が発生します。 リクルーティング費 条被験者の募集にかかるコストや、被験者一人ひとりへの謝礼の支払いなどがこれに当たります。リサーチパネルを使うか、独自の顧客リストを使うかで費用は変わります。また、条件の厳しいターゲット層を集めるほど単価が高くなる傾向があります。 実査(モデレーター)費 外部へ委託する場合、実査担当者の人件費等が発生します。また、録画した動画をマスキング処理する費用やインタビューのログをテキストで記録するための費用なども実査にかかる費用として含まれます。 また、オフライン実施の場合は、会場費や録画機材、被験者の移動費なども考慮する必要があります。 分析・レポーティング費 実査で得たデータを整理し、課題や改善点を導くためのレポート作成にかかる費用です。前述の通り、発生した課題の優先度付けや改善案の検討にはUXに関する深い知見が必要です。分析費用をかけて外部に委託する場合も多いです。 3-3.費用の変動要素 デプスインタビューの費用は、いくつかの要素によって大きく変動します。見積もりを取得する際や、予算を計画する際には、以下の点を考慮することが重要です。 実施人数 当然ながら、インタビューを実施する人数が多ければ多いほど、総額は高くなります。人数が増えれば、その分リクルーティング費、謝礼、実査費などが加算されていきます。 ただし、デプスインタビューは量より質を重視する調査のため、やみくもに人数を増やせば良いというものではありません。一般的には、5名から10名程度のインタビューで、多くの示唆が得られると言われています。まずは少数から始め、必要に応じて追加調査を検討するのが賢明です。 また、インタビューの人数を増やすと、その分分析にかかる工数も増大します。発言録を読み込み、インサイトを抽出する作業は非常に時間がかかるため、人数が増えるほど分析・レポーティング費用も高くなることを念頭に置いておきましょう。 実査(インタビュー)の時間 1人あたりのインタビュー時間も費用を左右する要素です。一般的なデプスインタビューは60分〜90分で設定されることが多いですが、テーマの複雑さや聞きたい項目の多さによっては、120分といった長時間の設計になることもあります。 時間が長くなれば、その分、対象者の拘束時間が増えるため謝礼金額が上がります。同様に、モデレーターの実査費や、対面で実施する場合の会場費なども高くなります。例えば、ユーザビリティテストのように、実際に製品を操作してもらいながら感想を聞く形式を取り入れる場合は、通常より長い時間が必要になる傾向があります。 ただし、不必要に時間を長く設定することは推奨されません。長すぎるインタビューは対象者の集中力を低下させ、かえって回答の質が落ちてしまう可能性があるためです。調査目的の達成に必要な、適切な時間を設定することが重要です。 対象者の条件 リクルーティングする対象者の条件も、費用を左右する大きな要因です。 例えば、「都内在住の20代女性で、特定のアプリを週に3回以上利用している人」といった一般的な条件であれば、比較的容易に対象者を見つけることができます。 一方で、「年収2,000万円以上で、過去1年以内に特定の高級車を購入した経営者」や「特定の希少疾患を持つ患者さん」といった、出現率が低く、条件が厳しい対象者の場合は、リクルーティングの難易度が格段に上がり、費用も高騰します。対象者を探すための工数が増えるだけでなく、希少な対象者への謝礼も高額になる傾向があるためです。 対象者への謝礼 インタビューに協力してくれた対象者に支払う謝礼も、費用を変動させる重要な要素です。謝礼の金額は、主に以下の3つの観点から決まります。 拘束時間:インタビュー時間が長くなるほど、謝礼は高くなります。 対象者の希少性:医師や弁護士、企業の役員といった専門職の方や、特定の条件を満たす希少な方にお願いする場合、一般的な謝礼よりも高額に設定する必要があります。 インタビュー内容の専門性:専門的な知識や経験について深くお話いただく場合も、謝礼は高くなる傾向があります。 適切な謝礼を設定することは、対象者の協力意欲を高め、質の高い情報を得るために不可欠です。安すぎる謝礼では、そもそも対象者が集まらない、あるいは質の低い回答しか得られないといった事態になりかねません。 調査内容の専門性 調査で扱うテーマの専門性も費用に影響します。 例えば、金融商品や医療、BtoBの専門的なITシステムなど、高度な知識を必要とするテーマの場合、調査設計やモデレーションにも専門性が求められます。その分野に精通したコンサルタントや経験豊富なモデレーターをアサインする必要があるため、企画設計費や実査費が高くなることがあります。 また、専門的な内容の場合、インタビュー対象者もその分野の専門家であることが多く、謝礼も高額に設定する必要があります。調査の質を担保するためには、テーマの専門性に見合った適切な投資が必要になるのです。 依頼する会社の規模や専門性 デプスインタビューを依頼する調査会社にも、様々な種類があります。 大手総合リサーチ会社は、豊富な実績と幅広いネットワークを持ち、大規模な調査や複雑なリクルーティングにも対応できる安定感があります。一方で、費用は比較的高めになる傾向があります。 他方で、UXリサーチや特定の業界に特化したブティックファーム(専門会社)も存在します。こうした会社は、特定の分野における深い知見や独自のノウハウを持っており、より質の高いインサイトを提供してくれる可能性があります。費用は会社によりますが、自社の課題や目的に合わせて、最適なパートナーを選ぶことが重要です。 アウトプットの質 インタビュー調査の最終的な成果物である「アウトプット」の質や形式によっても、費用は大きく変わります。 最も簡易的なアウトプットは、インタビューの発言録と、簡単なサマリーレポートのみという形式です。これであれば、分析にかかる工数が少ないため、費用を抑えることができます。 一方で、発言内容を構造的に分析し、背景にあるインサイトを深く考察し、具体的な改善提案まで盛り込んだ詳細なレポートを求める場合は、分析・レポーティング費用が高くなります。動画クリップやペルソナシートの作成など、追加の成果物を依頼する場合も同様です。どこまでのアウトプットを求めるのかを事前に明確にしておくことが、費用をコントロールする上で重要です。 4.デプスインタビューの費用を抑える3つのポイント ここまで解説したように、デプスインタビューにはある程度の費用がかかります。しかし、工夫次第でコストを抑え、費用対効果を高めることは可能です。ここでは、具体的な3つのポイントをご紹介します。 4-1.①依頼範囲を明確にし、自社で対応できる部分を切り分ける 調査会社に依頼する業務範囲を限定することで、費用を大幅に削減できる可能性があります。 例えば、リクルーティングを自社の顧客リストやSNSなどを活用して行ったり、インタビューの録音データからの文字起こしを社内で行ったりすることが考えられます。ただし、自社で対応する場合は、その分の工数がかかること、また、リクルーティングではバイアスがかからないように注意が必要な点を忘れてはなりません。どこをプロに任せ、どこを自社で担うのか、メリット・デメリットを比較検討することが重要です。 4-2.②オンラインインタビューを活用する 近年、急速に普及したオンラインでのインタビューも、費用削減に有効な手段です。 オンラインで実施する場合、対面インタビューで必要となるインタビュールームのレンタル費用や、対象者・調査員の交通費などが不要になります。また、地理的な制約がなくなるため、地方や海外に住んでいる人など、より幅広い対象者にアプローチできるというメリットもあります。機材のセッティングや通信環境の確認など、オンラインならではの準備は必要ですが、コストを抑えたい場合には有力な選択肢となるでしょう。 4-3.③複数社から相見積もりを取得する これはデプスインタビューに限った話ではありませんが、外部の会社に依頼する際は、複数社から見積もり(相見積もり)を取得することが基本です。 1社だけの見積もりでは、その金額が妥当なのかを判断することができません。2〜3社から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討することで、自社の目的や予算に最も合った会社を選ぶことができます。その際、単純な金額の安さだけでなく、担当者の専門性やコミュニケーションの取りやすさ、過去の実績なども含めて総合的に判断することが、プロジェクト成功の鍵となります。 5.費用対効果を最大化するために 最後に、かけた費用を無駄にせず、デプスインタビューの効果を最大限に引き出すために最も大切なことをお伝えします。 5-1.目的を明確にすることが最も重要. 繰り返しになりますが、デプスインタビューの成否は、「この調査を通じて、何を明らかにし、次のどのアクションに繋げたいのか」という目的の明確化にかかっています。 目的が曖昧なまま調査を進めてしまうと、ただ漠然とユーザーの話を聞くだけで終わり、具体的な改善案に繋がらない「やっただけ」の調査になってしまいます。これでは、かけた費用と時間がすべて無駄になってしまいます。プロジェクトを開始する前に、関係者間で「なぜこの調査が必要なのか」を徹底的に議論し、共通認識を持つことが、投資対効果を高めるための絶対条件です。 5-2.調査会社との連携を密にする 外部の調査会社に依頼する場合、「丸投げ」にしてしまうのは避けましょう。 調査会社はリサーチのプロフェッショナルですが、あなたの会社の製品やサービス、事業課題について最も詳しいのは、あなた自身です。自社の状況や課題、調査で得たいことなどを調査会社と密に共有し、パートナーとして二人三脚でプロジェクトを進める姿勢が重要です。積極的な情報共有と連携が、より質の高いインサイトの発見に繋がり、結果として費用対効果を最大化させるのです。 6.まとめ 本記事では、デプスインタビューの費用相場やその内訳、プロセス、そして費用対効果を高めるためのポイントについて詳しく解説しました。 デプスインタビューは、ユーザーの表面的な声だけではなく、その裏に隠された本音や潜在的なニーズを探るための非常に強力な手法です。決して安価な調査ではありませんが、その費用は、ユーザーを深く理解し、ビジネスを正しい方向へ導くための重要な投資と言えます。 今回ご紹介した内容を参考に、ぜひデプスインタビューをUI/UX改善に役立て、ユーザーから真に愛されるサービス作りを目指してください。