UIやUXの改善プロジェクトを任されたものの、「ユーザー視点」と言われても実際にどう動けばよいのか分からず戸惑っていませんか。書籍で基本を学んでも、現場で成果につなげられなければ意味がありません。本記事ではデザイン思考に特化した信頼性の高い書籍を厳選し、学びを即実務に移すコツと成功事例を体系的に解説します。読了後には、ユーザーの不満を構造化し、具体的な改善アクションへ落とし込む方法が理解できるはずです。 1.デザイン思考の基本理解 1-2.デザイン思考とは デザイン思考は「共感→定義→アイデア創出→プロトタイプ→テスト」の5ステップで構成されるユーザー中心の課題解決フレームワークです。最初にユーザー行動や感情を観察し、隠れたニーズを発見する「共感」で土台を築きます。続いて、観察した事実を構造化し、「誰が」「いつ」「何に困っているか」を明文化する「定義」を行います。ここで課題を絞り込むことで、以降のステップで無駄な開発コストを抑えられます。第三ステップの「アイデア創出」では、ブレインストーミングやマインドマップなど多様な手法を用いて解決策をできる限り広く発散します。その後、時間とコストを抑えた「プロトタイプ」を作成し、ユーザーやステークホルダーと共有して早期にフィードバックを得ます。最後の「テスト」で学習を重ね、改善点を加えて再度共感フェーズへ戻るサイクルを回すことで、ユーザー価値とビジネス成果の両立を図ります。この5ステップを意識するだけで、UX改善プロジェクトにおける議論の粒度が揃い、チームコミュニケーションが格段に円滑になります。1-2.なぜ今「デザイン思考」が注目されるのか DXの加速によって顧客接点の大半がデジタル上へ移行しています。その結果、機能面の優位性だけでは差別化が難しくなり、利用体験そのものが競争力の源泉になりました。デザイン思考はユーザーの潜在的ニーズを深掘りし、具体的な課題と解決策を同時に探索するプロセスであるため、短期間で価値検証ができる点が高く評価されています。また、日本国内でも行政サービスや医療など公共分野で導入が進み、成果が可視化されたことから、ビジネス領域でも採用が一段と活発になっています。5ステップの明快な手順が提示されていることで、専門外のメンバーでも参加しやすく、多様な視点が生まれやすい点も普及の追い風になっています。 1-3.ビジネス成果に直結するユーザー視点の重要性 デザイン思考が注目されるもう一つの理由は、ユーザー視点を数値で示せる点にあります。共感フェーズで収集した定性データを構造化し、問題を定義したうえで仮説検証を行うため、改善サイクルごとにKPIがクリアになります。その結果、施策の成功・失敗を学習コストとして蓄積でき、次の開発サイクルに活かせることが大きな利点です。また、ユーザーの声を直接プロダクトに反映するプロセスは、社内合意形成を容易にし、投資対効果を示しやすくなります。UI/UX改善においてはデザイン思考を通じてビジネス成果とユーザー満足度を両立させることが極めて重要です。 2.UX改善に効く!デザイン思考の5ステップを本で学ぶ 2-1.共感・定義のステップで何が見えてくるのか 最初の共感フェーズでは、ユーザー行動を観察し、インタビューを通じて顕在化していないニーズを抽出します。ここで得たインサイトをマッピングすることで、課題の優先順位が可視化される点が実務上の大きな収穫です。次の定義では、得られたインサイトを「○○したいが△△が障壁になっている」といった形で明文化します。これにより、開発チーム全員が同じ問題意識を共有でき、議論が建設的になります。また、このフェーズを怠ると後工程での手戻りが増えるため、書籍で理論を学びつつ、小規模なユーザー調査を並行して行うことが成功の鍵となります。 2-2.アイデア創出・プロトタイプで進める改善プロセス アイデア創出フェーズでは、定義した課題に対して自由度の高い発想を行います。いきなり結論を一つに絞り込まず、多様な視点からのアイデアを並行的に評価することで革新的な解決策が生まれやすくなります。その後のプロトタイプは「完成度よりも学習速度」を重視し、ペーパーモックやFigmaなどのデジタルワイヤーフレームを短期間で作成することが推奨されます。社内関係者に見せる際は、機能説明だけでなくユーザー価値をストーリーで伝えると理解が深まりやすいです。チェックリストなどを活用すれば、プロトタイプの品質管理も効率化できます。 2-3.ユーザーテストを取り入れた継続的改善の仕組み ユーザーテストは5ステップの学習サイクルを加速させる要となります。テストでは「どの機能が使われているか」だけでなく、「なぜその行動が生じたか」を深堀りする質問を用意すると定性データの質が高まります。また、テスト設計段階でペルソナとシナリオを明確にし、測定したい指標(完了率、エラー率、満足度など)を事前に共有することで、利害関係者との認識ギャップを防げます。テスト結果は優先度順に整理し、次のスプリントで改善策を実装しやすい粒度までブレークダウンしておくと、サイクルの停滞を回避できます。さらに、同じテストを継続的に繰り返すことで、改善効果を時系列で追跡でき、施策の有効性を定量的に証明しやすくなります。重要なのは規模より頻度であり、小テストを高回転させる姿勢が高速学習の鍵です。 3.まず読んでおきたいデザイン思考本3選 3-1.①デザイン思考が世界を変える:イノベーションを導く新しい考え方 デザインコンサルティング企業IDEOの事例を軸に、共感からイテレーション(※1)までの全工程をストーリー形式で解説しています。理論だけでなく、実際のプロジェクトでどのように課題を発見し解決へ導いたかが詳細に記述されているため、初心者でも実務シーンをイメージしやすい点が大きなメリットです。さらに巻末のワークシートは、読者が自社プロジェクトに即適用できるよう設計されています。物語と実践ツールがセットになっているため、学びを行動へ直結させたい読者に最適です。まずは本書に沿って週次でワークシートを進めると、1カ月で基礎スキルが定着します。 ※1. イテレーションとは、アジャイル開発で使われる用語で、短い期間(一般的に1週間から4週間)で開発サイクルを繰り返すことを指します。このサイクルは、設計、開発、テスト、改善の工程を繰り返し行い、段階的に製品やソフトウェアを構築、改善していくことを目的とします。 書籍情報 書名:デザイン思考が世界を変える:イノベーションを導く新しい考え方 著者:ティムブラウン 翻訳:千葉 敏生 出版社:早川書房 発売予定:2019年11月20日 ページ数:336ページ 定価:2,200円(本体1,980円+税10%) Amazon商品ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/4152098937 3-2.②実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決 スタンフォード大学d.schoolで実際に行われている授業内容を体系化した一冊です。共感インタビューの質問例や、観察で着目すべきポイントが具体的に示されているため、インタビューに慣れていない読者でもすぐに実践できるのが特徴です。また、プロトタイプの失敗例や改善例が多数掲載されており、躓きやすいポイントを事前に把握できます。章末の「ワークショップ進行ガイド」はチーム学習にそのまま流用できるため、社内勉強会の運営にも役立ちます。読後は、少人数のプロジェクトで「スモールスタート→検証→横展開」を試すと効果が実感しやすいでしょう。 書籍情報 書名:実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決 著者:ジャスパー・ウ 監修:見崎大悟 出版社:インプレス 発売予定:2019年9月6日 ページ数:224ページ 定価1,760円(本体1,600円+税10%) Amazon商品ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/4295007323 3-3.③デザイン思考の道具箱 -イノベーションを生む会社のつくり方 本書はツールごとに使用場面・手順・注意点が整理され、まさに実務で開ける「道具箱」のような構成です。例えば、ペルソナ作成テンプレートやカスタマージャーニーの記入例が豊富に掲載されており、テンプレートを自社フォーマットにリメイクするだけで即座に活用できます。また、ツール選定フローがチャート化されているため、課題に合わせた最適ツールを迷わず導入可能です。コンサルタントの視点で書かれているため、成果指標やROIの考え方が明快で、上長への説明資料作成にも応用できます。ツール活用で成果を積み上げたい読者には必携の一冊です。 書籍情報 書名:デザイン思考の道具箱 -イノベーションを生む会社のつくり方 著者:奥出 直人 出版社:早川書房 発売予定:2013年11月8日 ページ数:312ページ 定価770円(本体700円+税10%) Amazon商品ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/4150503982 4.書籍だけでは不十分?実践でデザイン思考を活かすコツ 4-1.書籍で得た知識を現場でどう応用するか 書籍を読んだだけで満足してしまうと、チーム内での共通言語が形成されないまま個人の知識で留まります。そのため、読書後すぐにチームへ内容を共有し、小規模なワークショップを開催することが推奨されます。共有時には「学んだこと」「自社課題への適用方法」「不明点」の三つを整理し、全員からフィードバックを得ると理解が深まります。また、共有資料をConfluenceやNotionなどのワークスペースに保管し、後から更新可能な状態にしておくことでナレッジを資産化できます。さらに、検証結果を定量・定性の両面で記録し、半年ごとに振り返る仕組みを作ると、学習サイクルが定着します。 4-2.「共感」の精度を高めるためのヒアリング術 質の高い共感フェーズを実現するには、インタビューの準備が欠かせません。まず、調査目的と仮説を明確にし、「何を知りたいか」をチームで共有することが重要です。質問はオープンエンド型を中心に構成し、「具体的に」「直近で」「どのように感じたか」といった深掘りフレーズを盛り込むと、ユーザーの行動背景を引き出しやすくなります。また、インタビュー後は速やかにメモを整理し、観察内容と本人の発言を分けて記録することで、解釈の混在を避けられます。得られた情報はKJ法や親和図(※2. アフィニティ・ダイアグラム)でグルーピングし、チーム全員がインサイトを視覚的に把握できる形へまとめると分析効率が向上します。最後に、ヒアリング結果をペルソナやカスタマージャーニーに反映し、次フェーズの問題定義で活用することで、共感の成果をプロジェクト全体へ波及させることが可能です。 ※2. 親和図(アフィニティ・ダイアグラム)とは、大量の情報を、その親和性(類似性、関連性)に基づいて整理・グループ化し、より意味のあるパターンや洞察を発見するためのツールです。具体的には、各アイデアを個々のカードに書き出し、共通のテーマや関連性に基づいてグループ分けすることで、アイデアの構造化や整理を効率的に行うことができます。 5.デザイン思考を活用した企業の成功事例 5-1.①Airbnb 創業初期に「予約が伸びない」という根本課題に直面した際、デザイン思考の共感フェーズを徹底し、ホスト宅を訪問して利用者体験を観察しました。その結果、「写真品質が低いと予約率が下がる」というインサイトを得て、プロの写真撮影サービスを導入。数週間で売上が倍増し、以後もユーザー中心の開発文化が根付いています。 5-2.②IBM 2013年に「Enterprise Design Thinking」を全社プログラムとしてローンチし、5ステップに準じた独自ツールキットを整備。プロジェクト開始から3カ月でユーザー検証を義務付けたところ、市場投入までのリードタイムを平均50%短縮する効果を得ました。デザイナーだけでなくエンジニアや営業も巻き込む横断型チームが特徴です。 5-3.③SAP ドイツ本社に「d.school(HPI)」と連携したイノベーションセンターを設立し、Fiori UIの開発でデザイン思考を導入。実際の業務ユーザーを常駐させた共感セッションを通じ、複雑だったERP画面をワンクリック操作中心に再設計しました。結果としてモバイル利用率が大幅に向上し、保守コストも削減されています。 5-4.④P&G 日用品開発にデザイン思考を適用し、「Swiffer」や「Febreze」などの新カテゴリーを創出。ユーザー宅での観察から“掃除機では取り切れない細かいほこり”という未充足ニーズを発見し、ペーパーモックで使用感を検証して短期間で量産化に成功しました。 6.まとめ:デザイン思考を身に着け、ユーザー視点のUX推進 デザイン思考は単なるアイデア発想法ではなく、ユーザー課題の発見から解決策の検証までを一気通貫で支えるフレームワークです。本記事で紹介した書籍を活用し、共感からテストまでの5ステップを体系的に学ぶことで、UI/UX改善の精度は飛躍的に高まります。また、学んだ知識を72時間以内にチームへ共有し、スモールスタートで検証することで、知識が実務に転換されやすくなります。ユーザー視点を組織に根付かせる鍵は継続的な検証とナレッジ共有にあります。今日からデザイン思考を実践に取り入れ、ユーザーとビジネスを同時に満足させるUX推進を目指しましょう。 参考情報 『デザイン思考が世界を変える:イノベーションを導く新しい考え方』(早川書房) 『実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決』(ダイヤモンド社) 『デザイン思考の道具箱 -イノベーションを生む会社のつくり方』(みすず書房) IDEO公式ブログ「Design Thinking for Business Innovation」(閲覧日:2025年5月) Nielsen Norman Group UX Research「UX Metrics and ROI」レポート(2024年版) Airbnb社インタビュー「How Design Thinking Turned the Tides」(2023年) IBM “Enterprise Design Thinking” ホワイトペーパー(2024年版) Hasso Plattner Institute/SAP共著『Design Thinking in Enterprise Software』(2024年) P&G社内ケーススタディ『Swiffer開発の舞台裏』(2019年)