「ユーザーの声は集まるのに、課題をどう整理すればよいのか分からない」。UI/UX改善に取り組む多くの担当者が、情報の複雑さに悩んでいます。私たちは数値や専門用語で議論しがちですが、視覚化することで一瞬で全員の理解をそろえられます。本記事では、その切り札となるインフォグラフィックの活用法を体系的に解説します。読了後には、チームの議論を前に進めるビジュアル戦略が手に入ります。 1.インフォグラフィックとは? インフォグラフィックとは、データや概念を視覚的に整理し、短時間で直感的に理解させる図解の総称です。文章や表だけでは把握しづらい関係性やプロセスを、アイコン・色・レイアウトで示すことで、情報の要点を際立たせます。また、複雑な内容を数枚のスライドに押し込めるより、1枚のビジュアルに集約したほうが記憶に残りやすいという研究結果もあります。UI/UX改善プロジェクトでは、ユーザーフロー・行動データ・施策効果など多層的な情報を扱うため、視覚的な整理が不可欠です。インフォグラフィックは、エンジニア・デザイナー・営業などバックグラウンドが異なるメンバー同士の意思疎通を助け、合意形成を高速化します。 2.インフォグラフィックの種類 2-1.ダイアグラム ダイアグラムは、要素間の関係や構造を抽象化して示す図です。UI/UX領域では、情報アーキテクチャやナビゲーション構造を整理する際に重宝します。また、システム全体の依存関係を俯瞰できるため、変更時の影響範囲を把握しやすくなります。作成のテクニックとして、階層を三層以内に収めると読み手の負荷が減少することが実証されています。一方で、要素数が増えると線が交差し可読性が下がるため、グループ化や色分けで情報を整理することが推奨されます。 2-2.ピクトグラム ピクトグラムは、文字を使わずに概念を象徴化したアイコン群です。ユーザビリティテストでは、文字よりアイコンのほうが0.4秒早く認識されるとの報告があり、ファーストビューの理解促進に役立ちます。また、多言語対応が必要なサービスでは、翻訳コストを抑えつつ統一感のあるデザインを維持できます。作成時には、視覚的メタファーが文化圏によって異なる点に注意が必要です。加えて、サイズが小さい場合は線幅を1.5px以上に保つと視認性が向上します。2-3.チャート チャートは、数値データの傾向や比較を示す代表的な手法です。棒グラフはカテゴリ比較、折れ線は時系列、円グラフは構成比の把握に適しています。UI/UX改善では、タスク完了時間やエラーレートなどのKPIを視覚化し、ボトルネックの特定に活用できます。また、色覚多様性に配慮し、色だけでなくパターンや形状でも差異を示すとアクセシビリティが向上します。チャートに注釈を加える場合は、過剰なテキストを避け、要点を10語以内にまとめると読みやすさが保たれます。 2-4.フローチャート フローチャートは、手順や意思決定の流れを順序立てて示す図です。オンボーディングフローや問い合わせ対応フローの可視化により、プロセスの無駄を発見しやすくなります。また、条件分岐を菱形で示す標準記法を守ることで、他チームとの共有がスムーズになります。UX観点では、タッチポイントごとにユーザーの感情をアイコンで添えると、改善優先度の判断材料になります。分岐が多い場合は、サブプロセスとして別図に分けることで複雑化を防げます。2-5.相関図 相関図は、要素間の相互関係を線や矢印で示す図です。感情マッピングや機能の相互依存を分析する際に活躍します。数多くの要素を扱う場合は、ノード同士の距離や線の太さで関係の強さを示すと理解しやすくなります。作成時は、相関図は読み手が探索的に解釈するため、凡例の明示が不可欠です。また、クリックやホバーで詳細を表示するインタラクティブな形式にすると、情報量を保ちながら初見の負荷を下げられます。 2-6.地図 地図ベースのインフォグラフィックは、位置情報を中心に示す手法です。リアル店舗を持つサービスの場合、アクセス動線の可視化やエリア別の利用傾向分析に利用できます。また、ヒートマップを重ねることで、利用密度や満足度の地域差を直感的に把握できます。レスポンシブ対応を意識し、縮尺が変わってもマーカーが重ならないデザインを心掛けるとモバイルでの可読性が向上します。さらに、配色は色相差より明度差を優先すると、ズームイン時の視認性が維持されます。 3.インフォグラフィックがUI/UX改善に効く2つの理由 3-1.「理解のスピード」を上げるビジュアル言語の力 インフォグラフィックは、脳が視覚情報をテキストより60,000倍速く処理するといわれる特性を活かしています。UXのボトルネック分析において、チーム全員が問題点を瞬時に共有できれば、議論の深度が増し意思決定も早まります。また、数字だけのレポートでは見落とされがちな相関関係も、視覚化することで自然に目に入ります。さらに、記憶定着率が向上するため、施策を横展開する際の社内プレゼンにも有効です。結果として、改善サイクルのリードタイム短縮に直結します。 3-2.ユーザー視点をチームで共有する共通フレームワーク ユーザージャーニーやペルソナの情報をインフォグラフィックで統合すると、部門ごとの目線の違いが解消されます。例えば、カスタマーサポートは不満点、マーケティングはコンバージョン率、開発は技術的制約に注目しがちです。しかし、一枚絵にまとめれば視点が交差し、共通のゴールを確認できます。また、タスク完了時の感情変化を色で示すことで、感情的な共感が生まれ、機能中心の議論からユーザー中心の議論に移行しやすくなります。こうした共通フレームワークは、改善施策の優先順位を定量だけでなく定性面からも評価する土台になります。 関連記事:UXデザインにおけるフレームワーク完全ガイド!全体像と活用ポイント4.成果を生むインフォグラフィックス設計フロー 4-1.目標設定とKPIマッピング インフォグラフィック制作の第一歩は、具体的な目的とKPIを明確にすることです。UI/UX改善なら、タスク成功率やNPSなどが候補となります。また、目的が「進捗共有」か「意思決定支援」かによって、必要な詳細度が変わります。作成時は、KPIを3つ以内に絞り、不要な情報を排除することで視覚的ノイズを減らせます。さらに、目標をSMART*¹に定義すると、インフォグラフィック完成後の効果検証も精緻になります。 *¹. SMART目標とは、目標設定のフレームワークの一つで、目標をより効果的に達成するために、以下の5つの要素を考慮して設定します。 Specific (具体的):何を達成したいのかを明確にする。 Measurable (測定可能):目標の進捗状況を数値などで測定できるようにする。 Achievable (達成可能):現実的に達成可能な目標を設定する。 Relevant (関連性):目標が組織や個人の目的と関連していることを確認する。 Time-bound (期限):目標達成の期限を設定する。 4-2.データ収集とストーリーテリング 質の高い視覚化には、信頼できるデータが欠かせません。アナリティクスツールやCRMからデータを抽出し、欠損値や外れ値を前処理で除去します。そのうえで、起承転結を意識したストーリーを組み立てると、読み手が自然に結論へ導かれます。また、視覚的ハイライトを一つに絞ることで、メッセージがぶれません。最後に、ストーリーボードを用いてデータとビジュアルの一致を確認すると、情報が散漫になるリスクを下げられます。 4-3.ワイヤーフレームとモジュール設計 ワイヤーフレームでは、情報の階層構造と読み進める順序を定義します。黄金比やZ型レイアウト*²を活用すると、自然な視線誘導が可能です。また、再利用可能なモジュール単位でコンポーネントを設計すると、数値更新や翻訳対応が容易になります。作成時は、最小フォントサイズを12pt以上にすることで、モバイル閲覧時の可読性を確保できます。さらに、デザインレビューでは実線・破線・点線の使い分けをチェックし、関係性の強弱を視覚的に示すことが推奨されます。 *². Z型レイアウトとは、ウェブサイトやチラシなどのデザインにおいて、ユーザーの視線が左上から右上、左下、右下へとZ字型に移動するパターンを利用したレイアウトのことです。 5.使えるビジュアルツール8選 UI/UX改善のためのインフォグラフィック制作では、目的やスキルに応じて最適なツールを選ぶことが重要です。ここでは、初心者から上級者まで幅広く活用できるオンラインツールを8つご紹介します。 5-1.①Canva Canvaはテンプレート数が豊富で、非デザイナーでも短時間で高品質なビジュアルを作成できます。ドラッグ&ドロップ操作で直感的に編集でき、チーム共有機能も充実しています。また、ブランドカラーとフォントをプリセット登録できるため、ガイドライン遵守が容易です。無料プランでも十分な機能を備えていますが、SVG書き出しは有料版のみ対応です。 5-2.②Infogram Infogramはインタラクティブなチャートや地図が得意なクラウドサービスです。CSVやGoogle Sheetsとの連携により、データ更新を自動で反映できます。レスポンシブ対応の埋め込みコードを発行できるため、ブログや社内ポータルで活用しやすい点が特徴です。また、アクセス分析機能を使えば、閲覧者のインタラクションを定量的に把握できます。プロジェクト管理視点では、バージョン管理を自動で行うため、修正履歴の追跡が簡便です。 5-3.③easel.ly easel.lyは教育機関向けに人気が高いツールで、タイムラインやプロセス図のテンプレートが多いことが魅力です。シンプルな操作性により、作業時間を短縮できます。ただし、画像素材が限定的なため、独自性を高めるには外部アイコンの追加が必要です。図形のスナップ機能を活用すると整列が自動化され、レイアウトの乱れを防げます。エクスポート形式はPNGが中心のため、ベクター利用時は注意が必要です。 5-4.④Venngage Venngageはビジネス向けテンプレートが豊富で、ピッチ資料やレポート用のデザインが充実しています。チームコラボレーション機能が強化されており、コメントや承認フローをオンラインで完結できます。UI/UX改善プロジェクトでは、ユーザージャーニー仕様のテンプレートが役立ちます。また、プレミアムプランではリアルタイムデータ接続が可能になり、ダッシュボード的な運用も可能です。多機能な分、操作画面が複雑との声もあるため、初回はガイドツアーを活用するとスムーズです。 5-5.⑤Piktochart Piktochartは、プレゼン資料とインフォグラフィックの両方を作成できるハイブリッド型ツールです。データインポート機能が強く、表計算ソフトの情報をワンクリックでチャート化できます。UIはフローチャート作成にも対応しており、UX改善のプロセスを図示するのに便利です。重要な内容として、画面上でグリッド表示を有効にすると、要素のズレを防げます。無料プランのストレージ制限があるため、大量のプロジェクトを扱う場合は有料プランを検討しましょう。 5-6.⑥Visme Vismeはアニメーション付きインフォグラフィックを得意とするプラットフォームです。モーション効果を使えば、数字のカウントアップや矢印の動きを視覚的に演出できます。UXプレゼンでストーリー性を高めたい場合に有効です。また、アクセス権限を細かく設定できるため、大規模チームでも管理がしやすいです。データ保護機能として、パスワード付きリンクを発行できる点も安心材料です。アニメーションを多用しすぎると読み込み速度が低下するため、ページ速度指標を確認しながら最適化しましょう。 5-7.⑦creately Createlyはコラボレーション機能が強力なダイアグラム作成ツールです。リアルタイム共同編集により、ワークショップ中でも図を更新できます。テンプレートはプロセスマップやER図など技術系が充実しており、システム全体図を迅速に共有する際に有効です。さらに、JiraやConfluenceと連携できるため、チケット管理と図解を一元化できます。導入時にはアクセス制御を役割別に設定し、編集権限の重複を防ぐと運用がスムーズになります。 5-8.⑧Cacoo Cacooは日本発のオンライン図解ツールで、操作画面が日本語化されているため社内展開が容易です。バージョン管理やコメント機能が備わっており、設計レビューを効率化できます。また、リアルタイム共同編集で、リモートワーク環境でもブレインストーミングが可能です。AWSアーキテクチャ図やユーザーフロー図など、多様なテンプレートを活用できます。セキュリティ面では、SAML認証に対応しており、企業のガバナンス要件にもマッチします。 UI/UX改善に使えるビジュアルツール比較表 ツール名 主な特徴 最適な用途・対象者 長所 注意点・デメリット ① Canva 豊富なテンプレートと直感的な操作性 非デザイナー、短時間で高品質なビジュアルを作成したい人 ドラッグ&ドロップで簡単編集、チーム共有機能、ブランドキット登録 SVG形式での書き出しは有料プランのみ ② Infogram インタラクティブなチャートや地図の作成 データに基づいたコンテンツ(ブログ、社内ポータル)の作成 データ連携で自動更新、レスポンシブ対応、閲覧者分析、自動バージョン管理 - ③ easel.ly タイムラインやプロセス図のテンプレートが豊富 教育機関、シンプルな図を素早く作成したい場合 操作がシンプルで作業時間を短縮できる、要素の自動整列機能 独自性の高い画像素材が少ない、PNG形式での書き出しが中心 ④ Venngage ビジネス向けテンプレートが充実 ビジネスレポートやピッチ資料の作成、チームでの共同作業 共同編集・承認フロー機能、ユーザージャーニー用テンプレ、リアルタイムデータ接続(有料) 多機能なため操作画面がやや複雑に感じることがある ⑤ Piktochart プレゼン資料とインフォグラフィックの両方を作成可能 データに基づいたプレゼンやプロセス図の作成 表計算ソフトからワンクリックでチャート化、グリッド表示でレイアウト調整が容易 無料プランではストレージ容量に制限がある ⑥ Visme アニメーション付きインフォグラフィックの作成 ストーリー性のあるUXプレゼン、視覚的な演出を加えたい場合 モーション効果、詳細なアクセス権限設定、パスワード付きリンク発行 アニメーションを多用するとページの読み込み速度が低下する可能性 ⑦ creately 強力なリアルタイム共同編集機能を持つ作図ツール ワークショップ、技術的な図(システム構成図など)の作成 複数人での同時編集、Jira/Confluence連携、豊富な技術系テンプレート 導入時に役割別のアクセス権限設定が重要 ⑧ visually プロのデザイナーに制作を委託できるプラットフォーム 社内にデザイナーがいないが、高品質なビジュアルが必要な企業 短期間でハイレベルな成果物、オンラインで完結する制作フロー コストは高め、依頼時の要件定義(ブリーフィング)が成果を左右する ⑨ Cacoo 日本発のオンライン図解ツール 日本企業、リモートでの共同作業や設計レビュー 日本語の操作画面、バージョン管理、リアルタイム共同編集、SAML認証対応 - 6.インフォグラフィックがまとまっている参考サイト3選 膨大な事例やテンプレートの中から、UI/UX改善に直結する優れたインフォグラフィックを効率的に探すには、信頼できるまとめサイトを活用すると便利です。ここでは、日本語・英語問わずおすすめのポータルを3つご紹介します。 6-1.①インフォグラフィック このポータルサイトでは国内外のインフォグラフィック事例が豊富に掲載されています。カテゴリー別にタグ付けされており、UI/UX分野の最新トレンドを迅速に把握できます。さらに、デザイナーの制作意図や使用ツールも紹介されているため、自社での制作時に参考になります。閲覧する際は、自社のブランドトーンと合う配色やフォントを意識して選ぶと流用しやすくなります。アイデア収集からデザインレビューまで活用できるインスピレーションの宝庫です。 6-2.②infographic.jp Infographic.jpは日本語で事例解説を行う専門メディアです。UI/UX改善に直結するケーススタディが多く、課題→分析→施策→効果の流れが整理されています。文章量が多い記事でも、図解によってポイントが明確に示されており、初心者でも理解しやすい構成です。また、ツールの具体的な設定手順やテンプレートの入手方法が公開されているため、実務で即活用できます。定期的に更新されるため、最新の国内事例をチェックするのに最適です。6-3.③VISUALTHINKING VISUALTHINKINGは情報可視化の理論と実践を橋渡しするサイトです。インフォグラフィックだけでなく、マッピング技法やスケッチノートなど幅広いトピックを扱っています。学術論文の要点をわかりやすくまとめた記事が多く、可視化の裏付けとなる理論を学べます。また、ワークショップ教材が公開されているため、社内研修に活用可能です。理論と実践の両輪を学ぶことで、説得力のあるビジュアルを制作する基盤が築けます。 7.まとめ 本記事では、インフォグラフィックの基礎からUI/UX改善における活用メリット、設計フロー、制作ツール、さらには事例が豊富な参考サイトまで幅広く紹介しました。 インフォグラフィックは複雑な情報を直感的に伝える強力な手段です。導入メリットを理解し、目的に合わせたフローで設計を行い、最適なツールを使いこなすことで、チーム内の共通理解が深まり、改善サイクルを一層加速できます。 ぜひ本記事のポイントを踏まえて、自社プロジェクトで実践し、より効果的なUI/UX改善を実現してください。