「モックアップとプロトタイプの違いが分からない」「モックアップの作り方が分からない」─そんな悩みを抱えていませんか。モックアップはプロジェクトを進めるうえで、サービスの見た目の合意形成を早める非常に重要なものです。この記事ではモックアップに焦点を当て、基礎から実践までを体系的に解説します。この記事を読むことで、「良いUIとは何か」が腹落ちし、明日からの改善施策を自信を持って提案できるようになるはずです。 1.モックアップとは? 1-1.モックアップの定義 モックアップは、配色・タイポグラフィ・イメージなど視覚要素を具体化した高精度の静的モデルです。ワイヤーフレームで決めた構造にビジュアルを載せ、完成イメージを関係者へ示す役割を担います。 また、開発前にブランドトーンやコンポーネントの一貫性を確認できるため、デザイン品質の指標にもなります。さらに、静的とはいえパーツ単位でインタラクションを想定しておくことで、後工程のプロトタイプ化が円滑になります。 プロジェクト序盤で見た目の合意形成を早める―これがモックアップ最大の意義です。1-2.ワイヤーフレーム・プロトタイプとの違い ワイヤーフレームは要素配置と機能優先順位を整理する「骨格」です。一方でモックアップは色や写真など視覚デザインを盛り込んだ「肉付け」の段階に当たります。 また、モックアップが視覚要素を具体化した高精度の静的モデルであるのに対し、プロトタイプは操作感を検証するためにクリックやアニメーションを実装した「動く模型」であり、UIだけでなくUXの仮体験による検証も目的とします。 こうした区別を把握することで、プロジェクトのフェーズごとに適切なアウトプットを選ぶことができるでしょう。 例えば、要件定義の段階ではワイヤーフレームが役立ち、社内外向けのレビューや共有にはモックアップが効果的になります。実際にサイトやアプリをリリースする前にユーザーテストを実施する場合は、プロトタイプで実施するのが望ましいでしょう。 2.モックアップ作成の3つのメリット 2-1.ステークホルダー間の認識共有が速い ビジュアルの完成形があることで、言語化が難しい色味や余白感を簡単に共有できます。また、経営者や営業担当者など非デザイナーの方でもレビューできるため、意思決定のリードタイムが短縮されます。さらに、早期のうちにビジュアルを合意しておくことで、後から仕様が変更されるリスクを回避し、プロジェクト全体の手戻りを防ぐことができます。 2-2.早期にビジュアル品質を担保できる モックアップ段階でスタイルガイドを兼ねたデザインシステムを整備しておくと、画面追加時にも一貫性が保たれます。一方ビジュアルを後回しにすると、各画面で独自ルールが生まれ、ユーザビリティの低下や一貫性の欠如を招きやすくなります。加えて、モックアップによって開発チームは完成形を見据えてコーディング方針を定めることができます。 2-3.開発コスト・工数の最適化に寄与 静的デザインの段階でUI崩れを発見すれば、修正は「画像の差し替え」で済みます。コード実装後の修正は複数ファイルやテスト工数が発生し、修正コストが数倍に膨らみます。モックアップで早期に問題を発見し解消していれば、後続の開発段階でのコスト・工数の削減につながるのです。また、見積精度が上がるため、経営層への説明責任も果たしやすくなります。 3.モックアップ制作フロー 3-1.要件&情報設計の整理 最初に「ユーザー課題」「業務フロー」「データ構造」を整理し、画面遷移図と機能一覧を作成します。ここでユーザーストーリーを洗い出すと、コンテンツの優先順位が明確になり、ユーザー中心のデザインを作ることができます。また、KPIと紐づけることで、モックアップ完成後のABテスト設計がスムーズになります。 3-2.ワイヤーフレーム → モックアップ移行手順 ワイヤフレームからモックアップへの移行手順は以下のようになります。グレースケールのワイヤーフレームを用意し、要素配置を確定する。ブランドカラー・フォント・アイコンセットを定義し、UIキットを作成する。 UIキットをワイヤーフレームへ適用し、モックアップを生成する。 関係者レビューを実施し、コメントを反映する。 この流れをテンプレート化しておくと、再現性が高まりプロジェクト横展開も容易です。 4.人気ツール比較:Figma・Adobe XD・Sketch 4-1.各ツールの特徴とメリット・デメリット FigmaFigmaは、クラウド環境での共同編集や豊富なプラグインが強みのデザインツールです。クラウドベースのためOSに依存せず、レビュー・コメントや開発への連携も容易です。また、コンポーネント機能を活用することで、デザインシステムの構築もしやすいというメリットもあります。無料プランも用意されており、小規模のチームであれば無料プランからでも始められます。小規模~大規模のどの規模のチームにもおすすめのツールです。 AdobeXDAdobe XDは、モックアップやプロトタイプの作成に便利なデザインツールで、デザイン初心者の方でも一度は耳にしたことがあるという方も多いでしょう。Adobe Creative Cloudとの連携が魅力的ですが、2023年1月に単体プランの販売が終了し、2025年5月時点ではメンテナンスモードとしての運用です。既存ユーザー向けのサポートは継続されているものの、新機能や今後の開発は行われないため、新規導入より他ツール移行を推奨します。 SketchSketchはMacOS向けのデザインツールで、直感的なUIにより初心者の方でも比較的容易に利用できます。Windowsユーザーは利用できず、また日本語対応が十分でない場面もありますが、MacOSを利用している方には便利なツールです。プラグインの数はFigmaよりも豊富ですが、Sketchはクラウドベースではなく共同編集の利便性はFigmaに劣ります。Windowsユーザは利用できない・Figmaに比べて共同編集はしづらい・デスクトップアプリをインストールしないといけないという理由から、様々なステークホルダが関わる大規模なチームやプロジェクトでの利用では、分が悪いかもしれません。 4-2.チーム規模・場面別の選択基準 小規模ベンチャーではコストと学習コストが鍵となります。Figmaは無償プランでも基本機能が充実しているため導入障壁が低いです。一方、大企業でセキュリティ要件が厳しい場合は、オンプレミス運用を許可するSketchあるいはEnterpriseプランのFigmaが候補になるでしょう。また、複数部署が関わるプロジェクトでは、コメント機能やバージョン履歴を手軽に共有できるFigmaがやはり便利です。 ツール OS メリット デメリット 料金プラン (2025年5月時点) Figma ブラウザ/ 全OS ・クラウド環境で利用可能 ・リアルタイムで共同編集可能 ・プラグインが豊富 ・コンポーネント機能が便利 ・学習コストが比較的高い ・ヒストリー機能がない ・ガイド線を固定できない ・スターター:無料 ・プロフェッショナル:3,000円 ・ビジネス:8,300円 ・エンタープライズ:13,600円 AdobeXD Windows/ macOS ・直感的に操作可能 ・Adobe製品との連携が容易 ・学習コストが低い ・単体プランの販売終了(現在はメンテナンスモード) ・プラグイン数は劣る ・コンプリートプラン:7,780円 ※スタータープランや単体プランは終了 Sketch macOS限定 ・直感的なUI ・プラグインが豊富 ・軽量で高速動作 ・シンボル機能 ・Windows非対応 ・共同編集が弱い ・日本語対応が不十分 ・Standardプラン:9$/名 ・Businessプラン:20$/名 4-3.関連ツール:ノーコードでのWebサイト制作・運用ツール — /STUDIO上記の3つのデザインツールとは毛色が異なりますが、開発の経験がない初心者でもWebサイトを簡単に実装・運用できる便利なツールとして/STUDIOを紹介します。 /STUDIOは、エディタ上のデザインが自動的にコードに変換されるため、完全ノーコードでWebサイトを制作できます。制作だけでなく保守・管理も/STUDIO上で対応可能で、大幅にコスト・工数を削減可能です。日本語にも対応しているほか、分かりやすいUIで直感的な操作ができるため、エンジニアなしでも簡単にWebサイトを制作・運用できるはずです。 Figma等のデザインツールからの連携も容易で、実際UIscopeのWebサイトもFigmaでモックアップを作成→/Studio反映・公開の手順でエンジニアなしで制作しています。 ただし、ノーコードであるがゆえに複雑な機能は実装できない場合もあり、大型なWebサイトやECサイト等には向きません。ページ数がそこまで多くない小規模~中規模のサイトを制作する方に推奨できるツールです。 5.よくある失敗と対策 5-1.失敗①:ユーザビリティの悪い設計 → 対策:ユーザー中心の設計 見た目を優先しすぎると、操作導線が複雑になりユーザビリティが低下するのはよくある事例です。導線や記載内容の直感的な分かりやすさを重視し、ユーザー中心のサイト/アプリ設計を意識しましょう。ユーザー中心の設計を実現するには、ペルソナやカスタマージャーニーマップの検討段階で徹底的にユーザーのニーズやペインを深ぼることが重要です。 関連記事:カスタマージャーニーマップとは?作り方と活用方法を解説また、必要に応じてモックアップ段階でユーザビリティテストを実施し、課題を洗い出し開発につなげることも検討しましょう。UIscopeでは、モックアップ段階でのユーザーテストの実績も豊富ですので、ぜひ一度ご相談ください。 5-2.失敗②:デザインの一貫性がない → 対策:デザインシステムの整備 ページごとにボタン形状や余白が異なると、ユーザーは無意識に負荷を感じます。自社専用のデザインシステムを整備※し、どのメンバーが制作にあたっても一貫性が保たれるシステムを構築することをおすすめします。デザインシステムの整備にあたっては、Figmaのコンポーネント機能やSketchのシンボル機能が便利です。 ※デザインシステムは、UIコンポーネント、UXの原則、コード実装など、開発全体を支える包括的な仕組みです。UIキットとの違いとして、UIキットは主にデザインツール(Sketchなど)で利用できる、UIアセット(ボタン、テキストフィールドなど)のコレクションですが、デザインシステムはプロダクト全体の設計を支える包括的な仕組みを指します。5-3.失敗③:モバイル対応していない → 対策:レスポンシブ対応 モックアップをPC解像度だけで作成すると、スマートフォン閲覧時にレイアウト崩れが生じます。デバイス幅ごとにレイアウトグリッドを設定し、Auto LayoutやConstraints機能で可変テストを行いましょう。また、画像はSVGやWebPを活用し、読み込み速度を最適化することでモバイル体験が向上します。 5-4.失敗④:実装時の乖離 → 対策:乖離を防ぐチェックリスト せっかく納得の行くモックアップを作成しても、開発者との認識・イメージがズレていると実装時にイメージしていないサイトやアプリが出来上がる可能性があります。また、先述の通り、実装開始後の修正は大きな手戻りが発生し開発コストがかさむ可能性もあります。UIデザインが開発者のイメージとズレていないか、モックアップの作成段階から頻繁に確認するようにしましょう。 以下はデザイナーと開発担当者とのイメージの乖離を防ぐためのチェックリストの例です。 必要に応じて活用してください。 デザイナー・エンジニア合同で受け入れ基準を定義する。 StorybookやPlayroomを用い、コンポーネントをコード・デザイン双方で同期させる。 ソース管理にデザインファイルのバージョンURLを記載し、差分を追跡する。 QAフェーズでピクセルパーフェクトレビューツール(Pixel Perfect Proなど)を使用し、誤差を定量把握する。 リリース後はユーザー行動をヒートマップで確認し、合意と実態のギャップを継続的に検証する。 6.まとめ モックアップは、ビジュアルでの早期の合意形成を実現しプロジェクトを早く進める上で非常に重要なものです。要件整理からデザインシステム構築、開発連携までの一連フローを理解することで、UI/UX改善プロジェクトの成功確率は飛躍的に高まります。今回紹介したフレームワークとチェックリストを活用し、次のレビューで自信を持ってモックアップを提示してください。